「心理的安全性の格差」が組織に与える重大リスク 組織の生産性に悪影響を及ぼす可能性もある

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この差が解消されないままでいると、さまざまな問題が起こる。その例として、ここでは代表的な2つを紹介する。

混在したときに起こり得る問題

1つは、さまざまな個性を持った人材が活躍する機会を得られず、離職してしまうことだ。不安や恐れが大きい人は、職場に対して、「居心地が悪い」「無能とみなされることがつらい」と感じて転職する可能性がある。転職後、目覚ましい活躍を上げる場合もあり、人材をうまく活用できずに、機会の損失につながると考えることができる。

2つめは、組織力の減少である。不安や恐れが大きい人と小さい人が混在している組織では、以下のような負のサイクルが生まれる。

不安や恐れが小さい人が有能というレッテルを貼られると、本人は発言に自信を持つようになり、また周囲も仕事を任せるようになる。すると、発言機会がより増える。

一方、不安や恐れが大きい人が無能というレッテルを貼られると、本人は発言を躊躇するようになり、また周囲も仕事を任せなくなる。すると、より発言機会が減る。このサイクルから、

・組織内の発言に偏りが生じ、多様な観点が失われる

・業務差配の適切さが失われ、労務管理や育成等に問題が生じる

(例:不安や恐れが小さい人の過重労働、大きい人の成長機会損失)

といったことが起こり、組織力の減少につながる。

混在する場合に起こり得る2つの問題を防ぐためには、自組織における心理的安全性の高さを確認する際に、単に組織としての結果だけを見て高い、低いを判断するのではなく、組織内に心理的安全性が高い人、低い人がどのくらいいるのかを確認するのはもちろん、以下のような策が有効と考える。

・自組織で仕事ができる人、もしくは無能な人、何もしない人が、心理的安全性が高い層と低い層、それぞれに当てはまっていないか確認し、当てはまっていた場合、心理的安全性の低い人が何に不安や恐れを感じているかを探り、改善策を講じる

・心理的安全性が高い人が、わからないことを聞く、ミスを正直に報告するといった行動を、低い人がいる環境下でも起こし、それが受け止められていることを示す

・仕事ができる、できないといったレッテル貼りを思わせる行動を控える 

心理的安全性の高い人、低い人の状態と行動を踏まえたうえで、周囲や組織にもたらす影響と、組織内で混在する場合に起こり得る問題について紹介した。自組織の中で心理的安全性を調査し、高い層と低い層が混在した場合には、上記2つの問題が起こり得ると意識し、対策することが重要である。

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みずほリサーチ&テクノロジーズ
Mizuho Research & Technologies, Ltd.

2021年、みずほ情報総研、みずほ総合研究所、みずほトラストシステムズの合併により発足。ハイレベルなリサーチ、コンサルティング、ITデジタルに関する知見を融合し、社会へ新たな価値を提供する日本有数のシンクタンク。リサーチ部門では、経済・金融のスペシャリストが付加価値の高いマクロ情報の提供、政策提言を行う。コンサルティング部門では、企業や官公庁、地方自治体のあらゆる課題解決をサポート。IT部門では、高度なデータ分析やシステム設計力・実装力を活かして社会やビジネスが直面する課題に取り組んでいる。

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