政府検討「自衛隊地下施設へ住民避難」が愚策な訳 シェルターとして使用するには課題だらけ

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第3の理由は、ゲリラ・コマンド攻撃が懸念されることだ。避難住民に紛れた破壊工作員が自衛隊の施設に入り込もうとしても、自衛隊にそれを発見する能力はない。警察官であれば、警察庁が運用する警察情報システムに連接して、指紋や運転免許証情報、要注意人物の入国情報、各種届出情報にアクセスし、不審者を発見することもできるが、自衛隊にはそのような手段も権限もない。

国家安全保障戦略が指摘するように、現在は有事と平時、軍事と非軍事の境目が曖昧になっており、戦後、目を背けてきた内なる敵への対処も現実となってくる。

ゲリラ・コマンド攻撃はその際たる例だ。避難住民に偽情報を流して不安感を醸成させたり、自衛隊の支援に対する不満をSNSに投稿して、国民の自衛隊への信頼感を失墜させたりする認知領域での情報戦が行われる可能性もある。

背景にあるのは「安保3文書」の閣議決定

ここまで自衛隊地下施設への住民避難が愚策である理由を列挙してきた。そもそも冒頭の松野官房長官の発言と産経新聞の報道の背景には、12月16日に閣議決定された「安保3文書」がある。本当に自衛隊地下施設への住民避難が検討されているのであれば、安保3文書にそれを裏付ける記述があるはずだ。改めて安保3文書の位置付けを確認してみよう。

安保3文書とは、外交・防衛の基本方針を定めた「国家安全保障戦略」、おおむね10年間に防衛目標を実現するための方法と手段を定めた「国家防衛戦略」、防衛費の総額や装備品の整備規模を定めた「防衛力整備計画」を指す。国家安全保障戦略は2013年の制定後初めて改定されたもので、国家防衛戦略と防衛力整備計画はこれまで防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画と呼ばれてきた。

よって、自衛隊地下施設への住民避難が本当に検討されているのであれば、安保3文書にその旨が記されているはずだ。それでは各文書の関連する内容を見てみよう。

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