政府検討「自衛隊地下施設へ住民避難」が愚策な訳 シェルターとして使用するには課題だらけ
第1は、自衛隊地下施設は避難住民を収容するような施設ではないということだ。自衛隊地下施設と聞くと、山をくり抜いた地下深くに設けられたシェルター、例えば防災地下神殿とも称される首都圏外郭放水路のような巨大空間をイメージする人もいるのではないだろうか。
だが、それは間違いだ。防衛省・自衛隊は現有の地下施設の一覧や詳細を公表していないが、公開情報を調べるかぎり、市ヶ谷の防衛省、陸上自衛隊朝霞駐屯地の陸上総隊司令部、海上自衛隊横須賀基地の海上作戦センター、厚木基地の航空集団司令部と隷下航空群のASWOC(対潜戦作戦センター)、航空自衛隊横田基地の航空総隊司令部、各航空方面隊のDC(防空指揮所)などが抗堪性を備えた地下施設を有するようだ。
これら地下施設には、中央指揮システムや陸海空自衛隊の指揮システムと味方と敵の状況を表示する巨大スクリーンを備えた作戦室、敵の動向を分析する情報室、各種システムや通信設備を管制する通信室、そのほか各種会議室や非常発電機などが備えられており、特に防衛省の地下施設は拳銃を携行した警務官が厳重に警備しているといわれる。
つまり、地下施設は隊員が有事の際に避難する施設ではなく、平時・有事を問わず部隊の指揮に必要なC4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視及び偵察)の中枢施設なのだ。
ゆえに24時間態勢で運用されているものの、生活に必要な設備はトイレと洗面所くらいしかなく、食事をするときは地上に出て食堂に向かわなければならない。付け加えれば、地下施設は各種システムやコンピューターの熱暴走を防ぐため、1年中冷房が効いているので、防寒着なしでは風邪を引いてしまうそうだ。
C4ISRの中枢である地下施設は「立入禁止場所」
また、C4ISRの中枢である地下施設は秘密保全訓令で「立入禁止場所」に指定されており、同じ司令部に勤務していても情報や作戦、通信などの関係者以外は立ち入ることができない。むろん、一般の自衛官は必要がある都度申請書を提出して、許可されなければ立ち入ることはできない。
実は、過去に自衛隊地下施設の情報公開を求めた裁判が行われたことがある。1989年に提訴された那覇市情報公開取消訴訟は、海上自衛隊が那覇基地にASWOCを建造したとき、建築基準法に基づき那覇市に提出された設計資料の情報公開を求めたもの。そもそも重要な防衛施設を一般の建築物と同様に取り扱う法的瑕疵の問題があると思うが、裁判では国側が敗訴した。結局、設計資料は市により公開されてしまうのだが。
これほどまでに秘密保全と防護を重視している自衛隊が、任務遂行に大きな支障をきたす、不特定多数の避難住民を地下施設に収容することはないといえる。そして、目的と機能、予算の関係から、これから建造される地下施設がC4ISRの中枢であることは変わりないだろう。
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