政府検討「自衛隊地下施設へ住民避難」が愚策な訳 シェルターとして使用するには課題だらけ

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第2の理由は、国民保護における住民避難の法制度と難しさだ。2004年に制定された国民保護法では、弾道ミサイル攻撃など武力攻撃事態に際して、国が警報を発令し、都道府県に住民の避難が必要な地域などの情報を指示し、避難場所の開設や住民の誘導は市町村が行うこととされている。

では、自衛隊は何をするのかというと、主たる任務である武力攻撃の排除に全力を尽くし、任務に支障のない範囲で住民の避難や救援を行う。

内閣官房は「国民保護ポータルサイト」で武力攻撃事態が起きた際の緊急一時避難施設約5万2000件を公表している。だが、その多くは小中学校や公民館、地下道であり、とてもではないが弾道ミサイルの直撃から生き残れるようなシェルターでない。そして、実は避難施設の中には自衛隊の駐屯地や基地は含まれていないが、これは上述した自衛隊の任務を阻害しないためだ。

そうはいっても、公民館や小学校の体育館よりも自衛隊の施設のほうが安全で、生活支援も充実しているだろうと、自衛隊の施設に避難したい人も少なくないのではないか。

武力攻撃事態での支援は期待できない

東日本大震災のとき、自衛隊は仙台駐屯地に置かれた統合任務部隊司令部に民生支援セルを設け、避難所や民家を御用聞きのように訪ね歩き、多様なニーズに応えた記憶がある。その際、生理用品やミルク、おむつなど女性視点が必要なため、多くの女性自衛官が動員された。

だが、このような手厚い支援は、住民の救援が主な任務である災害派遣では可能だが、武力攻撃事態では多くの部隊が作戦地域に展開するので、このような支援は期待できない。

むしろ、期待することで自衛隊の任務と行動を阻害し、外敵の排除という最大の目的を達成することができず、むしろ住民への被害が拡大しかねないと言える。

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