2023年、世界の株式が一段と厳しくなる10の理由 株は長い「冬の時代」を迎えたかもしれない

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かつてのシュンペーターの創造的破壊とは、その破壊が不況をもたらし、その不況こそが資本主義を発展させる原動力である、という理論だった(だが、これが彼の「経済発展の理論」の本質であり、昨今言われている軟弱なイノベーションのことではない)。この不況というプロセスの必要性は意図的に忘れられ、ほとんどすべての経済学者が不況回避のために知恵を絞っている。

確かに当面の苦しみは減るかもしれない。だが、経済発展を阻害し、資本主義経済を衰退させることを、自由と市場経済が経済成長をもたらすと信じているナイーブな経済学者たちが、せっせと提言している。堕落した大衆社会に対する歯止めとなるべき政治家・知識人が、その堕落を助長している。これでは世界経済は救えるはずがない。

最後の10番目に、あの中国までもがポピュリズムに支配され始めた。コロナ対応のヒステリックな政治対応・完全コントロールから、完全放任・コントロール放棄への豹変が典型例だが、今後も政権維持のために大衆の雰囲気に支配され続けるだろう。これまで、作り上げてきた人工的な世論が逆噴射し、その誤った世論から政権は逃れられなくなるだろう。経済対策も、戦争戦略もだ。

これは何を意味するか。ロシアだけでなく、中国までもがポピュリズム的な独裁者により、戦争を手段として利用する可能性が高まる、ということだ。

1から9までの理由は確実に起きることだが、この10番目の理由はまだリスクシナリオにとどまる(と望みたい)。ただ、リスクシナリオとしては、ロシアによる核兵器の使用は十分にありうる。そして、核兵器を使おうが使うまいが、国家体制の破綻まで行かないことには戦争は終わらないだろう。

不況や試練を移行過程として受け止め、新時代へ準備を

つまり、2023年以降、世界的規模の戦争のリスクが高まり、その兆候は断続的に現れてくる。株式市場は戦争の兆候のイベントに反応し、何度も下落するだろう。

こう見てくると、2023年の株式市場は絶望的だが、このように世界は株価の下落などよりも重大な試練に直面するのだ。だからこそ、株式市場の低迷が重要なニュースとすらならず、社会はより深刻な問題にとらわれ、株価の問題は放置され、株式市場は冬眠することになるのだ。

2023年以降、世界が直面する試練の全体像とはどのようなものか。世界の主要国が主体となる戦争はその象徴だが、戦争による世界秩序の破壊とは、近代の破壊であり、社会の変化による近代資本主義という構造の衰退が静かに、時には目立って、着々と進んでいくことになる。

1970年代の不況は、高成長からのギアチェンジだった。成熟経済・低成長経済への構造変化の移行過程だった。

今回は、成熟経済・低成長の中での構造変化である。低成長からの減速はゼロ成長しかない。量的拡大はついに終わった。2023年からの不況は、単なる30年周期の経済循環における不況ではなく、膨張の時代から内的質的充実の時代、動の時代から静の時代、変化の時代から安定的循環の時代、スピードの時代から観察・熟考の時代に変わる大転換の一例にすぎない。

したがって、この不況はどうやっても抜け出せない。何をしても無駄だ。われわれが今行うべきは、この現実と向き合い、不況や試練は次のステージへの移行過程としての必然プロセスとして受け止め、新しい時代が来ることへ、心の準備をしておくことなのだ。

(今回は競馬コーナーはお休みです。ご了承ください。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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