生命保険業界は再発防止に向けた指針策定すら右往左往している。果たして、新たな営業指針が今後まとまったとして、各社はその実効性を本当に確保できるのか。
「毒にも薬にもならないようなシャビイ(お粗末)なものを当初提示してきて、この業界は本当に自浄能力があるのかと疑問に思わざるをえなかった」
金融庁の幹部が苛立ったような表情でそう話し、酷評するのは生命保険業界が策定に向けて目下議論を進めている新たな営業管理指針だ。
業界団体の生命保険協会が中心となり、同指針の検討を始めたのは2022年4月のこと。第一生命で元営業職員による19億円以上もの金銭詐取事件が発覚した2020年以前から、生保各社では数千万円やときに1億円を優に超える金銭詐取事案が相次いでおり、金融庁から実効性のある対策を求められたことがきっかけだった。
草案の中身は「基本中の基本」のことばかり
2022年9月に作業部会の初会合を開いて以降、あずさ監査法人の助言も得ながら、生保各社のトップとの意見交換などを経て、指針の草案が出来上がったのは11月に入ってからだ。
「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」というタイトルで、その内容は大きく分けて2つ。「経営陣によるガバナンス(統治)体制」と「営業現場やコンプラ部門などのリスク管理のあり方」だ。
指摘事項は、営業職員を統括する支社長の役割や人事・報酬制度にはじまり、高齢の営業職員や成績優秀者への対応、金銭詐取を生じさせないための取り組みなど多岐にわたる。
A4判17ページで、各項目において参考にすべき取り組み事例を紹介するなど、営業現場で理解が深まる工夫も凝らしていた。
ところが、書かれている中身はといえば、「内部監査部門がその機能を十分に果たすには(中略)独立性が担保されていることが重要である」など、リスク管理の基本中の基本といえることばかり。「管理態勢の更なる高度化」を謳っていながら、冒頭で金融庁幹部が酷評した通り、総じて毒にも薬にもならない稚拙な内容だったのだ。
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