気候変動対策の国際交渉「COP」はもはや無意味だ 斎藤幸平・東京大学大学院准教授に聞く

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――斎藤さんは見かけ倒しの豊かさを追い求めるのをやめ、「脱成長」を目指すべきだと著書で述べています。

気候変動問題に関して言えば、過剰な大量生産・大量消費をやめなければ、ガソリン車が電気自動車に代わったとしても、事態はよくならない。

例えば、毎年、今の年末年始の時期に、クリスマスケーキや正月のおせちなどが、大量廃棄されている問題。これは、環境問題でもあるが、ノルマとか、強制購入、廃棄の心理的負担など労働問題にもつながっている。人間も自然も使い捨てない社会にするためには、未来の技術革新に頼るだけでなく、今すぐできる身近な使い捨て社会の問題を解決していくべきだ。

私の考える本当の豊かさとは、労働時間をもっと短くし、家族や友だちと時間を共に過ごし、地域でボランティア活動やスポーツをしたりすることだ。そのためには公園や図書館などの「コモン」(人々によって社会的に共有・管理される富)を増やしていく必要がある。

必要なのは「下からのうねり」

――斎藤さんは市民やローカルの役割を重視していますが、国家の役割をどう考えますか。

国家の役割はまったく否定していない。例えば週休3日制を全産業に当てはめるには、国の役割は重要だ。しかし、そのためには、週休3日制を求める声が、市民や労働者からわき上がってこなければ法制化を実現できない。また、自治体レベルでさまざまな取り組みが必要だ。

例えば、市民が声を上げることで自分が住む町で自動車が進入できないゾーンを広げたり、東京都が条例化したような、新築住宅の屋根に太陽光パネルを載せることを義務化するといった取り組みも重要だ。人々の意識が変わっていけば、やがては抜本的な格差是正策として、国レベルで年収について上限を定めるといったことも考えられる。気候変動問題もそうしたさまざまな取り組みと密接に関係している。

いずれにせよ、下からのうねりがあって初めて、国のGX(グリーントランスフォーメーション)も、COPのような国際会議も意味を持つ。私たちが声を上げることのないままに、良心的な政治家や企業経営者のようなリーダーが良い政策や技術で、気候危機から救ってくれるという幻想を捨てなければならない。そうしなければ、世界の気温上昇は1.5度のみならず、2.0度のラインも遅かれ早かれ、突破してしまうだろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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