気候変動対策の国際交渉「COP」はもはや無意味だ 斎藤幸平・東京大学大学院准教授に聞く

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――グレタさんはCO2削減に後ろ向きだとして、スウェーデン政府を訴えました。

自国の政府を提訴し、削減対策を実行させるほうがはるかに有意義だ。オランダでは国際環境NGOのフレンズ・オブ・ジ・アース(FOE)とオランダ市民が大手石油メジャーのシェルを相手取って、CO2排出削減を義務づける判決を勝ち取った。

COPの代わりというのであれば、各国が大陸ごとに集まって、もう少し規模の小さい市民会議をやったらどうか。そうすれば、多くの人は飛行機に乗らずに参加できる。

――COP27でも各国がパビリオンを設け、たくさんの企業が脱炭素の取り組みへの熱意をアピールしました。企業の役割と責任をどう見ていますか。

会場には化石燃料産業の関係者やロビイストもたくさん来ていた。プラスチックゴミの大量廃棄問題で国際環境NGOグリーンピースからやり玉に挙げられているコカ・コーラがCOP27のスポンサーになっている。

また、日本企業のブースでは、EACOP(東アフリカ原油パイプライン)という世界最長の石油パイプラインに投資していることが途上国の活動家たちから批判されていた。企業の役割やESG投資が重要だという主張はもちろん否定しないが、グリーンウォッシュには目を光らせる必要がある。

斎藤幸平・東京大学大学院准教授
さいとう・こうへい/1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了、博士。2022年から東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)で「ドイッチャー記念賞」を日本人として初めて、歴代最年少で受賞。『人新世の「資本論」』がベストセラーに。近著は『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(撮影:梅谷秀司)

日本も脱成長への移行を

――そうした実態について、日本の大手メディアはほとんど報じていません。そもそも日本では気候変動問題への関心が低いのが実情です。

再生可能エネルギーや電気自動車導入の取り組みで、日本はヨーロッパなどから2周遅れているのが実情だ。化石燃料の輸入に莫大な資金を支払っている現状にもっと私たちは危機感を持ち、エネルギー安全保障や経済政策として、グリーン産業に積極的な投資をする必要がある。

しかし、世界はもっと先を行っていて、Z世代を中心に、「緑の成長」ではだめで、「脱成長」に移行しなければいけないという機運が高まっている。その点で日本ははるかに立ち後れている。

そもそも日本では人権のような理念が社会を動かす力になりにくい。気候変動問題のみならず、ジェンダー問題や、最近ではサッカーのワールドカップに対する反応でも同じようなことがいえる。

ワールドカップのドイツ代表は1次リーグで敗退したが、選手が開催国カタールの人権状況に抗議の意思を示した。他方、日本ではそうした視点がまったく欠落し、単にスポーツイベントとして楽しめばいいという雰囲気一色だった。

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