お騒がせイギリス王室は「Netflix」でなぜ反撃? ブログ化した「ハリー&メーガン」の裏事情

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2人の主張を裏付けるように、マンチェスター大学教授のデイヴィッド・オルソガら支持者の証言コメントによって畳み掛けてもきます。イギリス王室は60%から80%の高い支持率がある一方で、システムとしての限界が指摘され、「生き延びるには近代化が必要。大衆のサポートも不可欠だ」と明言されます。そして、その答えを握っていたのがヘンリー王子とメーガン妃であるのにもかかわらず、英国王室は2人を守らないどころか、システムを変えるチャンスを失ったという筋書きです。

ダイアナ元妃の意思を受け継ぐ息子

ネガティブキャンペーンの背景の1つに白人優位の新聞社組織に対する問題が指摘されていますが、新聞メディア側の主張がいっさい排除されている作りに多少モヤモヤさせられます。王室側についてはその対処法として「内容についてイギリス王室はコメントを控えました」というテロップが表示されてはいるものの、配信後、事前確認の作業に不手際があったとか、なかったとかで王室と制作側がもめていることが報じられています。

詰めが甘いとも言えるなかで、ダイアナ元妃の息子としてヘンリー王子が感情で訴える場面は味方をかっさらう効果があるように思います。悲劇のヒロインとしてのイメージが強いダイアナ元妃の意思を受け継ぐ息子が行動に出たという筋書きもあるからです。それこそ甘いストーリー仕立てですが、共感を生むことに寄った今の世の中で強みになっていることは否めません。

王室物語と言えば、Netflixの人気コンテンツの1つにドラマ「ザ・クラウン」があり、2022年11月に配信された最新のシーズン5では1990年代を舞台にチャールズとダイアナの離婚に焦点が当てられています。歴史的な事実とゴシップを巧みに混ぜ合わせたフィクションとして評価を得ている作品です。この「ザ・クラウン」と合わせてドキュメンタリー「ハリー&メーガン」を視聴すると、余計にイギリス王室を知った気になれます。

ドラマ「ザ・クラウン」シーズン5は1990年代を舞台にチャールズとダイアナの離婚に焦点が当てられている(画像:Netflix)

結局は「ハリー&メーガン」は事実を追求する硬派なドキュメンタリーというよりも、ゴシップの裏側をのぞき見しているような作品です。それはそれでセレブゴシップ好きの満足度を高めてくれるので不満はありません。違和感が残るのは、2度のアカデミー賞ノミネートとエミー賞受賞実績を持つリズ・ガーバスを監督に迎えたドキュメンタリー作品としてうたっている点です。

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Netflixにはたとえば、「逃亡者 カルロス・ゴーン 数奇な人生」など本人の協力が得られなくても、外側から徹底的に事実を並べて、問題点を浮き彫りにする良質ドキュメンタリー作品もそろっています。そんななかで、「ハリー&メーガン」はそれとは違う類の番組です。セルフブランディングとして割り切って作られているとしたら、成功事例だとも言えます。2022年12月8日に配信開始された直後にNetflixの英語TV番組グローバルTOP10ランキングで2位を獲得し、その後も上位ランキングをキープし続けています。

続編を希望するほどのニーズはなくても、2人はNetflixと複数年の契約を結んでいますから、「ハリー&メーガン」の子育て術やライフスタイル番組などが今後、登場していく可能性は十分にあります。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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