「防衛3文書」対中劣勢で打つ拒否・競争戦略の本質 防衛費をGDPの2%に引き上げる要諦は規模にあらず

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「だからこそ、日本は防衛費を対GDP比で2%に引き上げた」という見方もあるだろう。しかし、仮に日本の防衛費が2030年に2%水準を達成していたとしても、中国の同年の規模の5分の1に到達するにすぎない。すなわち、日本は中国とパワーが対等であった2005年以前の関係に戻ることは、もはやできないのである。これが「対中劣勢」を前提とする国力の現実である。

そればかりではない。かつて第一列島線の内側にとどまっていた中国の軍事的影響範囲は、西太平洋全体に及んでいる。中国軍の接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力はさらに向上し、米中の通常戦力のバランスも中国側の優位に傾くと見込まれている。従来、アメリカが圧倒的に優位だった戦略環境は、いまや自明ではなくなっているのである。

競争戦略・拒否戦略の組み合わせ

アメリカが圧倒的な軍事的優位を保ち、日中関係における日本優勢だった戦略環境は、対中劣勢を前提とした戦略環境へと構造的な変化を遂げた。この構造変化に耐えうる考え方について、国家防衛戦略は「相手の能力と戦い方に注目」して「新たな戦い方」を推進すると述べる。

それは相手と軍事力の規模を競うのではなく、相手が軍事的手段では一方的な現状変更を達成できず、「生じる損害というコストに見合わない」と認識させる能力の獲得を目指すとしている。換言すれば、相手の作戦遂行能力に対する「拒否戦略」であるといえる。

その決め手となるのが「遠方から侵攻能力を阻止・排除」できる能力の獲得と、領域横断作戦による優越によって「非対称な優勢」を確保し、持続性・強靭性に基づく継戦能力によって相手の侵攻意図を断念させる防衛目標である。2027年までは日本への侵攻の阻止・排除をし、そしておおむね10年後までに「より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除」できるように防衛力を抜本的に強化する。

日本が目指す防衛戦略は、この拒否戦略を繰り返すことによって、新たな優位性を獲得することにある。ミクロレベルでは拒否戦略(strategy of denial)、マクロレベルでは競争戦略(competitive strategy)の組み合わせと捉えることができる。

拒否戦略は、中国の作戦遂行能力を拒否することに最大の主眼がある。アメリカが海空優勢により中国を圧倒する考え方を転換し、中国の軍事作戦の成功を阻止するための、非対称的な拒否能力を重視するというものである。

次ページ中国は日米の拒否能力に向き合わざるをえなくなる
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