すでにアメリカの国家防衛戦略(2022年10月)は、抑止力の形成に必要な要素として、拒否的抑止(deterrence by denial)、強靭性による抑止(deterrence by resilience)、直接的・集団的なコスト賦課による抑止(deterrence by direct and collective cost imposition)を挙げている。かつての懲罰的抑止を中心とした抑止体系からの、構造的な変化ともいえる。
さらに本シリーズで小木洋人が指摘(日本の防衛「中国の2つのジレンマ」に有効な戦略/12月5日配信)したように、中国が現状変更を企図した作戦行動(例えば台湾に対する着上陸侵攻)をとる場合、中国はアメリカおよび日本の拒否能力に向き合わざるをえなくなる。
「機会の窓」を与えないことが重要
例えば中国軍は艦艇を経空・水中攻撃から守る艦隊防空や対潜水艦作戦(ASW)能力が十分でなく、とくに着上陸侵攻の核となる統合揚陸作戦を実行することが困難な状態にある。また中国の大型アセットは、対艦・対地ミサイルや無人機などの小回りの利くアセットによって、作戦能力が非対称的に減殺されるリスクに向き合うこととなる。こうした中国軍の脆弱性をあぶり出し、中国に軍事行動の「機会の窓」を与えないようにすることが重要となる。
マクロレベルでの競争戦略は、安全保障、経済、政治基盤の優位性を保つため、台頭する競争相手国のパワーの基盤を揺るがし、資源を競争劣位な分野に浪費させ、拡張政策のコストを賦課することなどにより長期的競争を勝ち抜くことにある。
そのために競争相手の得意分野での占有を防ぎ、不得意・不採算分野での投資を強いて競争体力を奪い、その間に次世代技術をリードすることにより競争空間を変化させ、時間を味方につける。民間企業が市場優位性を確保するための戦略とも通底する。
競争戦略を現代の戦略環境に当てはめると、陸海空の通常戦力における対称的な優位性の確保は困難になっているが、潜水艦を主体とする水中戦や、電子戦領域における優位、宇宙、サイバー、無人兵器、指向性エネルギー兵器などの新領域を組み合わせた領域横断作戦能力を強化することにより、非対称な優位性を発揮することは依然として可能である。
「新しい戦い方」の導入によって戦場の優位性をつねに変革することにより、中国が優位性を固定化できないようにすることが重要となる。その間に中国が競争劣位な分野に多大な投資をさせ、コストを賦課することによって、長期的な競争を勝ち抜くという考え方となる。
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