32歳「スキルス胃がん」の母親が娘に宛てた手紙 iPadには「退院したらやりたいことリスト」

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もっちゃん、こっちゃんはひらがなが読めるようになり始めていた。手紙を書いたのは、2人が文字を読む練習になれば、という思いもあった。何より、2人が不安にならないように、という気持ちが大きかった。

手紙には、2人それぞれの似顔絵と、もっちゃんあてには「マイメロディ」、こっちゃんあてには「キティちゃん」の絵が描かれていた。

こっちゃんは、絵を見ながら「かわいい!」と叫んだ。かわいいと思ったのは、きっとキティちゃんの絵ではなくて、自分の似顔絵のほうなんだろうな。こうめいさんはそう思いながら、そっとほほ笑んだ。

みどりさんからLINEのビデオ通話の呼び出しがかかってくると、2人は大喜びした。自分が食べる焼きそばをスマートフォンの前にかざしながら「ママ食べてー」と言ったり、「見てみてー」と言いながら、部屋の中ででんぐり返しをしたりした。

みどりさん宅に泊まり込んで2人のお世話をしていたえつこさんは、「病院に行って会うことはなかなかできないけれど、せめて、ITが発達している時代でよかった」と思った。

みどりさんは、病室で時間があると、折り紙で子どものポロシャツを2人分折り、胸のところにもっちゃん、こっちゃんの名前を書き込んだり、おもちゃの小箱をつくったりして、2人に渡してくれるよう、こうめいさんに託した。もともと、折り紙は得意ではなかったが、2人のためにiPadで折り方を調べながら、少しずつつくった。

周囲に泣き言をいわないみどりさん

慶應義塾大学病院でみどりさんをケアしている看護師たちは、みどりさんについて、がんの告知直後であること、痛みなど身体の苦痛があること、さらに、もともとのがまん強い性格もあってか、「つらさや気持ちをあまり表に出さない傾向があるようだ」と見ていた。

32歳という若さで、ステージ4のスキルス胃がん。あまりに過酷な現実なのに、周囲に泣き言をいうこともない。みどりさんのそんな姿に、近藤咲子さんら看護スタッフたちは、「現実を正しく理解できていないか、極限状態といえるほどにがまんをしているか、そのいずれかの可能性がある」と考えざるをえなかった。

10月24日に、患者とその子どもたちを支えるための自主グループ「SKiP KEIO」のブレスレットとロケットづくりが予定されていた。でも、みどりさんの気持ちがまだ落ち着いていないようだ、という理由で、予定は1週間ほど繰り延べになった。

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