1377人逮捕「香港理工大包囲事件」現場で見た衝撃 学内でその様子を撮影した監督に話を聞く
――2022年7月に林鄭月娥(キャリー・ラム)に代わり、新たに警察出身の李家超(ジョン・リー)が行政長官に就任しました。デモ以後、香港では天安門事件に関する記述が教科書から消えたと聞きましたが、いわゆる「表現規制」は進んでいると感じますか。
確かに、天安門事件に関する歴史の教科書における記述は少なくなっています。また、報道全般において、政治的なニュースの量が減っていたり、政府にとって不都合な事実は明らかに隠そうとしているように感じます。
表現規制は政策レベルで実施しています。少し前にも、政府に対して批判的なコメントをSNSに掲載しただけで、国家安全維持法に抵触し、訴追されるということがありました。
2020年6月に成立した国家安全維持法はとても曖昧な内容だったので、私たちの生活はどんな風に変わるのか、当時はわかりませんでした。しかし、今、香港で生活をしていて感じるのは、自由な表現空間は間違いなく縮小傾向にあるということです。
――被写体とカメラの距離が近いように感じましたが、どのようにして撮影していたのでしょうか。
現場でカメラを回していると目立つので、被写体の人たちは自分が撮影されていることはわかっています。撮る前に、名前や撮影したいことなど自分の情報をいったうえで「これから撮影したい」とボディランゲージで伝えていました。
例えば大きな決定をするときの会議などにも立ち会い、撮影していますが、おそらくその時にはもう誰もカメラを気にしていなかったと思います。すべての撮影について了承している、という状況で撮影していました。
なかったことにされたくない
――撮影中に印象に残ったことはありましたか。
「今の自分を記録してほしい」というリクエストを受けました。13日間の撮影の後半に現場にいた学生たちが私たちにインタビューをして欲しいと声を掛けてきたのです。
そのとき、私たちは彼らの考えや感じたことなどを聞きました。香港のデモは公式には「違法な出来事」として存在しなかったことにされる可能性もあります。
その瞬間の自分を記録できるのは、そこにいた人しかいない。記録されなければそこで過ごした時間がなかったことになってしまうかもしれない。その瞬間の自分を残してほしい、という切実な願いがありました。
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