地下とは、いったいどの地下なのか
2009年6月。僕は東京で最初に入った事務所をやめて、心機一転、フリーのピン芸人として再出発をすることにしました。うつは快方に向かいましたが、仕事が好転したわけではありません。フリーのピン芸人といっても、自分でそう名乗っているだけのことで、実体は限りなくホームレスに近い状況です。
いつしか僕は、地下芸人と呼ばれるようになっていったのです。
地下芸人というと、古めかしいビルの地下にある小劇場やライブハウスに出演しているイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。その「地下」ではないのです。
地下芸人は、地上にある劇場にも野外の舞台にも出演するし、マンションの一室みたいなところでトークライブをやったりすることもあります。
では、いったいどの地下なのかといったら、たぶん「地下に埋もれている」の地下なんだと思います。ある人なんて、地下よりももっと深く埋もれているからといって、僕のことを「マントル芸人」なんて呼んでいたこともありました。
テレビでは絶対に放送できない政治ネタ、宗教ネタ、心霊ネタ、下ネタ、わけのわからない珍妙なネタを止むにやまれぬ情熱でやり続けて、しかも、売れない期間が10年から20年ないと、地下芸人とは呼ばれません。そして、そういう芸人さんは、世の中、いや地下には、けっこうたくさんいるのです。
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