日本が安全保障力を着実に高める為の5つの方策 構造変化に戦略的・機動的に対応するには

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国を越えて統合された安全保障力を追求するとともに、さまざまな問題の連関を考えながら国際的に協力して対応していく力が試されており、新たな構造変化に全体として適応するような各国の連携能力がますます重要になってきている。

特に、秩序に挑戦する国に対する抑止のためには、政府内、日米間はもとより、ASEANを含むインド・太平洋にとどまらず、EU、NATOや欧州各国との協力も含めて、24時間絶え間なく日常的な情報の共有と政策の機動的・分野横断的な遂行・調整を行っていく「場」とシステムの構築が不可欠である。

5 諸計画の戦略的・機動的実施のためのメカニズムの構築(Implementation)

政府の体制整備に加え、複数のシンクタンクや有識者の連携により、計画に関する「統合・履行・検証・提言メカニズム」を構築し、その履行、状況変化への対応、成果の検証、緊急措置の必要性などに関して、定期的に検討を行い、提言を含む報告書をまとめることとすべきである。

この前提として、政府が諸計画のアクション・アイテムを網羅的に、目標とするタイムラインと併せた形で示すことが望まれる。これにより、国民をはじめマスコミ、研究機関やNGOに対して、諸計画の透明性が確保され、国民の認識の向上や知識の共有化につながる。また、民間からの情報提供を含む要望の発出や計画の機動的な実施・変更などに対する理解を得る契機とすることができる。

戦後最も厳しく複雑な安全保障環境を生き抜くために

以上の5つの施策は、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」を生き抜くためには、最低限必要なものであり、先を見通すための情報の統合力の向上、変化に対する感度豊かな戦略的機敏さの発揮、そして計画を実行・検証・改善し続ける粘り強さの確保に資するものと考える。

重要なことは、わが国として安全保障に関連する総力を結集し、国際環境に積極的に働きかけるための創造的イニシアティブの発揮、抑止が破られる場合に備えて必要となるハード・ソフトの緊急的な整備および将来を見据えた中長期的な国力の強化の実現を図ることにある。

(高見澤將林/東京大学公共政策大学院客員教授)

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地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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