計画の実施に当たっては、新たな前提自体が時代のさらなる変化に取り残される宿命にあるという認識に立って柔軟性を確保することが不可欠である。これには、事業の全面的見直し・凍結、前倒し・拡大、計画外事業の取り込みなどが含まれる。
同時に「検討」を先送りせずに結論を出す「スピード感」と、事業の「見える化」など透明性のあるプロセスの確立が不可欠である。言い換えれば、計画は本来静的な「歯止め」や「到達点」といったものではなく、動的に「回転させて」手応えを確かめるべきものなのである。
「策定よりも具体化が困難」という前提に立って
今回の戦略では、こうしたプロセスの確立に資するため、高次のレベルでの国家の対応の統合や機動的に予算を確保するための新たな施策が随所に盛り込まれている。本稿では、計画の策定よりもその具体化がいかに困難かという筆者の経験を踏まえつつ、効果的な戦略の実施に必要な5つの方策について述べたい。
1 官民協力体制の確立のためのソフトウェアの強化(Interaction)
今回の諸計画策定に当たっては、防衛産業基盤の強化、グローバルサプライチェーンや安全保障上必要なインフラの強化、国民保護の充実など日本に対する攻撃への強靭性の確保などが重視された。このためには、何よりもまず一方通行ではない官民協力体制の充実が不可欠であり、ともに行動する習慣を構築するためのソフトウェアの強化が重要である。
具体的には、政府による積極的な情報発信、関係者間における機微なものを含む情報共有を可能にする制度の導入、国民の安全保障意識の形成、定期的な訓練やセミナーなどを通じたオールジャパンとしての能力の検証などが不可欠である。また、こうしたソフトウェアが確保されれば、官民を通じた安全保障関連の事業やデータの共有化が進展するとともに、統一的な手法により、多様なニーズに応じた適切な情報管理が可能となる。
2 変化に応じて柔軟に計画・事業を見直すメカニズムの確立(Improvisation)
年度予算制度の制約の克服や安全保障環境への変化の加速化という観点からは、状況変化に応じて機動的にかつスピーディーに計画を実施していくことが重要である。例えば研究開発における目標水準の引き上げやリスクが高くとも先端的な内容を目指す研究に対する支援の拡大 、事業の進捗の加速化に対するインセンティブ規定の活用、集中的整備のための予算の柔軟配分、基金による機動的な資金の活用や会計手続きなどの簡素化である。
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