20代を犠牲にしてわかった怪しいビジネスの裏側 なぜ真面目で仕事のできる人が闇落ちするのか

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何も知らないドナは、新しい仕事に懸命に打ち込んだ。大勢の知人に連絡して化粧品を勧め、自分のフェイスブックで宣伝した。

会社からは事業の成功の秘訣を説くというDVDをさらに購入したが、商品を仕入れたコストを回収するには売り上げが足りなかった。彼女を勧誘した「アップライン」と呼ばれる女性に売り上げの一部を差し出さなければならず、利益も薄かった。ドナは「何かがおかしい……」と感じ始めていた。

異常な体験を新しいパラダイムで見る

会社は「簡単かつ自由にビジネスができる」とうたっていたが、実際に働いてみたら、まったくそのような感じがしない。ほかにもおかしなことはあった。たとえば、同社が販売するDVDの内容。会社の宣伝に登場する女性たちの言葉と、自分が経験している現実との間には大きなギャップがあった。

「この仕事をしてお金を稼ぎながら、子どもを何人も育てた」と自慢気に語る女性もいた。ベビーシッターの経験があったドナには、この仕事と育児を両立するのは至難の業だと思えた。

アップラインの女性からは「会社の仕組みには何も問題はない。もしうまくいかないのなら、それはあなたの努力が足りないからだ」と言われた。

ドナは、蓄積されていく異常な体験を「このシステムは問題ない」というパラダイムに無理やり当てはめようとした。

「“なぜそうなるの?”と思うことはたくさんあったけど、もっと勉強したり自分が成長したりすれば疑問は解けていくはずだと思っていました」

自信を失いながらも、会社ではなく自分を責める日々が続いたが、パラダイムシフトは突然、起こった。

「ネットフリックス」を観ていたドナは、女優のリア・レミニがプロデュースし、自らも出演した『私は元サイエントロジー信者』というドキュメンタリーシリーズを見つけた。

レミニはこのシリーズで、彼女自身がサイエントロジー教会のメンバーだったときに体験した虐待やハラスメントについて語り、同様の経験を語る他の元信者たちにインタビューをしている。

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