【繰り返す下痢】受診の時期と行くべき診療科は 根本原因「考え方のクセ」を直す心理療法が有効

✎ 1〜 ✎ 34 ✎ 35 ✎ 36 ✎ 最新
拡大
縮小

伊藤さんが得意としている心理療法が「森田療法」だ。精神科医の森田正馬氏によって日本で100年以上前に編み出されたもので、過敏性腸症候群の治療にも有効とされている。

例えば、うっかりおならが出てしまう経験は、誰にでもある。だが、過敏性腸症候群の人の場合は、「まわりに音が聞こえて、変に思われているのではないか?」と過剰に反応してしまう。こうした“ちょっとしたこと”を過度に捉えることで、過度なストレスを感じ、視床下部や自律神経が正しく機能しなくなってしまうのだ。

成功体験が症状を和らげる

森田療法では、患者が普段の生活でどんな経験をしているのか、心療内科医や心理士がていねいに話を聞いていく。大学ノートなどに日々何が起きたのか具体的に書いてもらい、それを見ながら治療を進めていく。伊藤さんによると、患者の日々の行動を細かく見ていくと、症状の改善につながる“発見”があるという。

「例えば、電車の中でお腹が急に痛くなった経験があると、次からはつねにお腹の調子が気になって、電車を降りてトイレに行くことばかり考えるようになります。でも、たまたま通勤電車のなかで急に上司から仕事のメールが来て、そのことを考えていたら会社の最寄り駅に着いてしまった、といったことが仮にあったとしましょう。このように、本人が気づかないうちに意識をお腹の不安からほかに向けられているケースもあります」

こうした成功体験を重ねていくことで自信がつき、症状が改善していくという。

「患者さんはお腹に少しでも異常を感じると、意識がそこに向いて神経質になりがちです。しかし、お腹の症状はともすると誰もが経験すること。ほかの人はそれほど意識をそこに向けておらず、これからのことを考えている。お腹の症状なんていつの間にか忘れているわけです。患者さんがそんな気づきを得ることで、症状の改善につながっていきます」と伊藤さんは続ける。

この連載の一覧はこちら

こうした自律訓練法や森田療法を受ける前段階、つまり心療内科に行く前の診療で症状が改善するケースも、もちろんある。 ただ、それで治らない場合は、一度、心療内科で診てもらう手もあることを覚えておくといいかもしれない。

なお、心療内科のなかには、伊藤さんのように内科医が精神医療を学んでいるケースのほか、精神科医が内科系の医療を学んで心療内科を標榜しているケースもある。この場合、治療のアプローチが若干異なる場合もあるという。

(取材・文/若泉もえな)

この記事の前編:【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳

東急病院心療内科
HDCアトラスクリニック心療内科、東急電鉄株式会社統括産業医
伊藤克人医師

1980年、筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学心療内科に入局。1986年より東京急行電鉄株式会社東急病院に勤務。現在は東急電鉄株式会社統括産業医兼、東急病院心療内科医師。専門は心身医学、産業医学、森田療法。著作・監修に『いちばんわかりやすい過敏性腸症候群』(河出書房新社)など多数。
東洋経済オンライン医療取材チーム 記者・ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

とうようけいざいおんらいんいりょうちーむ / TKO Iryou-Team

医療に詳しい記者やライターで構成。「病気」や「症状」に特化した記事を提供していきます。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT