この基準にもあるように、過敏性腸症候群では、大腸や小腸など消化管には目立った異常は見られない。では、患者の体ではいったい何が起きているのか。そのポイントとなるのが“脳と腸の動き”だ。下痢型のケースでみていく。
ストレスと脳・腸の働き
まずは脳の動きについて。
心理的ストレスを受けると、自律神経系の中枢である視床下部にストレスが生じたことを知らせる信号が送られる。ところが、過度な心理的ストレスを受けた場合、送られる信号が過剰になるため、視床下部はオーバーワークしてしまう。
心理的ストレスは誰でも持つものだが、神経質な人ほど過度に捉えやすい。さらに過敏性腸症候群では、排便の不調そのものが大きなストレスとなる。伊藤さんも「神経質な人は、お腹が少しでも痛いとそれを強いストレスとして感じるため、悩みとして大事(おおごと)に捉えてしまいがちです。そして、それにより意識がお腹に向くためにより痛みが強く感じられる、という心の悪循環が起こります」と話す。
排便をうながす腸の蠕動(ぜんどう)運動は、自律神経系の交感神経と副交感神経によって支配されている。交感神経が優位になっているときは蠕動運動がゆっくりになり、副交感神経が優位になっているときは活発になる。この交感神経と副交感神経に指令を出して、両者のバランスを取っているのが視床下部だ。
ストレスで視床下部がオーバーワークとなり、正しく機能しなくなると、交感神経と副交感神経のバランスも乱れてしまう。その結果、交感神経が優位になっているときにも蠕動運動が過剰になり、便意を感じてトイレに行きたくなるのだ。
過敏性腸症候群で下痢になるもう1つの原因は、腸の動きそのものにもある。
食事を摂ると、食べ物は胃や小腸などの消化器官を経て、消化されなかった残渣(ざんさ:食べ物のかす)が大腸へと運ばれる。大腸の水分の吸収能力は体質によるところも大きく、人によって異なるが、このときに残渣に含まれた水分が大腸でうまく吸収されないと、そのまま水分を多く含んだ下痢便として体外に排出される。
また、下痢になるかどうかは、ガスの有無も大きく関わってくる。ガスが過剰にたまると、大腸が刺激される。すると大腸の動きは活発になり、けいれんのような激しい動きを起こす。これにより残渣が押し出されて、下痢便となって体外に排出される。
ガスが過剰にたまるかどうかは、「食事の摂り方も影響する」と伊藤さんは言う。例えば早食いのように、食べ物と一緒に空気を一気に飲み込むような食べ方をすると、その空気がガスとなり体内にたまってしまう。「また、口呼吸で空気を飲み込むと、ガスがたまりやすいです。コロナ禍でマスク生活が続くと知らないうちに口呼吸になりやすいので、気を付けましょう」(伊藤さん)
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