「知の深化」バイアスに陥らないための視点とは パーパスブームから両利きの経営を問い直す
冨山:そう。だから、経営論の枠を越えて、社会論的にそういう議論が出てきた背景として、私なりに理解しているのが、外部性の問題です。経済の社会システムには、ある個人や企業の行動が、まったく関係のない人や企業に影響を及ぼす、いわゆる「外部性」が働きます。
そういう外部性の問題は、時代によって膨らんだり、縮んだりする。最近は、環境問題や、インクルージョンかダイバーシティーなど、社会面でも外部性の問題が顕著で、これをあまりにも放置すると、資本主義経済システムが自滅してしまう。
したがって、経済人はそのことを頭に入れて、自分たちの企業経営活動の中で、ある部分はイノベーションによって内部経済化し、ある部分では、利益を少し犠牲にしても外部性から生じる問題を最小化しないと、まずい。そういう社会運動としてパーパスが出てきているように思います。
ただし、これは個別企業のパーパスよりも、時代の要請から来ている大きなものなので、従来はビジョンとして語っていたものを、それに合わせていく必要はありますね。
「世の中のお困り事」の解決もパーパス経営
冨山:その一方で、経済も企業もそもそも、世の中のお困り事を解決して発展してきました。たとえば、パナソニックの創業者の松下幸之助さんが事業で最初にフォーカスを当てたのは、家事労働の負荷を軽くすることです。
当時、専業主婦はほとんどいなくて、農家も商家も女性は仕事をしながら、子育てや家事をこなしていたので、すごく過酷でした。それで、炊飯器など家電製品でその問題を解決できないかと考えたのです。
入山:なるほど。社会的な思いからなのですね。
冨山:そうです。主婦の家事労働はGDPにカウントされないので、完全に外部性の問題です。そこを何とかしようと。お金持ちはお手伝いさんに頼めるけれど、一般庶民に届けたいから、大量生産、大量販売で、安くして手に届くようにしたかった。
だから、完全にパーパス経営です。おそらく多くの企業の原点は、そういうところから始まっていると思います。
入山:とくに戦後に出てきた日本の会社はそうですよね。