「知の深化」バイアスに陥らないための視点とは パーパスブームから両利きの経営を問い直す
冨山:その意味でいうと、パーパス経営を突き詰めて、利益追求とトレードオフで見ると、話が歪んでしまう。両立しがたいものではなく、新たな価値を生み出して両立させる「トレードオン」ですよね。社会課題を解決したから、巨大な産業になりました。
岸田政権の「新しい資本主義」でも最終的に、外部性を成長のエネルギーにしようと考えていますが、これはビジネスの原点で、とりわけ新しいことでもない。しかし今、外部性になっているものは、従来ビジネスモデルでは解決できず、まさにイノベーションを起こさないと、それは内部化できない。それが私の考えです。
遠い未来の腹落ちのためにパーパスが必要
入山:私も完全にそれに賛成です。大学院生だったときに、恩師の佐々波楊子先生(慶應義塾大学名誉教授)から言われて、なるほどと思ったことがあります。
結局、お金が入ってくるということは、世の中で役に立っているからなのだと。世の中の役に立つのと、お金が入ることは、日本では相反することのように思われますが、「助けてくれてありがとう」と思うからお金を払ってくれるわけですよね。
両利きの経営の話で説明すると、SDGsよりも大切なのは、知の探索です。ところが、これは言うのは簡単だけど、やるのは大変。どうしても深化バイアスがかかる。だから、センスメーキングが欠かせません。センスメーキングというのは、ミシガン大学のカール・ワイク教授が言っているもので、早い話が、遠い未来の腹落ちです。
目の前の四半期決算も大事だけど、それよりも、10年、20年、30年先の未来に向かって、うちの会社はこういう方向感でやるんだという、ビジョンやパーパスが重要。それが社長から従業員までみんなが腹落ちしていると、探索をやって失敗しても、私たちが行きたい世界はこっちだから、おおむね合っているよね、続けていこうとなる。
それをコツコツやっていると、たまに当たるので、そこに思い切って投資する。僕の理解では、グローバル企業はそういうことをやってきた。だから、遠い未来の腹落ちが大事です。