「知の深化」バイアスに陥らないための視点とは パーパスブームから両利きの経営を問い直す

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冨山:その意味でいうと、パーパス経営を突き詰めて、利益追求とトレードオフで見ると、話が歪んでしまう。両立しがたいものではなく、新たな価値を生み出して両立させる「トレードオン」ですよね。社会課題を解決したから、巨大な産業になりました。

岸田政権の「新しい資本主義」でも最終的に、外部性を成長のエネルギーにしようと考えていますが、これはビジネスの原点で、とりわけ新しいことでもない。しかし今、外部性になっているものは、従来ビジネスモデルでは解決できず、まさにイノベーションを起こさないと、それは内部化できない。それが私の考えです。

遠い未来の腹落ちのためにパーパスが必要

入山:私も完全にそれに賛成です。大学院生だったときに、恩師の佐々波楊子先生(慶應義塾大学名誉教授)から言われて、なるほどと思ったことがあります。

入山章栄(いりやま・あきえ)/早稲田大学ビジネススクール教授。1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある(撮影:尾形文繁)

結局、お金が入ってくるということは、世の中で役に立っているからなのだと。世の中の役に立つのと、お金が入ることは、日本では相反することのように思われますが、「助けてくれてありがとう」と思うからお金を払ってくれるわけですよね。

両利きの経営の話で説明すると、SDGsよりも大切なのは、知の探索です。ところが、これは言うのは簡単だけど、やるのは大変。どうしても深化バイアスがかかる。だから、センスメーキングが欠かせません。センスメーキングというのは、ミシガン大学のカール・ワイク教授が言っているもので、早い話が、遠い未来の腹落ちです。

目の前の四半期決算も大事だけど、それよりも、10年、20年、30年先の未来に向かって、うちの会社はこういう方向感でやるんだという、ビジョンやパーパスが重要。それが社長から従業員までみんなが腹落ちしていると、探索をやって失敗しても、私たちが行きたい世界はこっちだから、おおむね合っているよね、続けていこうとなる。

それをコツコツやっていると、たまに当たるので、そこに思い切って投資する。僕の理解では、グローバル企業はそういうことをやってきた。だから、遠い未来の腹落ちが大事です。

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