
筆者の本コラムを継続してお読みいただいている読者はおわかりだと思うが、これまでのところ、日本銀行の金融政策に関する筆者の「予想」は幸いにも読者を裏切らずに済んでいる。
日銀の「利上げ継続」は単なるポーズではない
2024年7月には「『日銀利上げ』の確率を過少評価すべきではない」で利上げを予想(的中)、同年12月には市場で高まっていた利上げ予想に対して12月ではなく2025年1月になると予想(的中)、そして金利高と円高が進み、市場で利上げペースの前倒し観測が強まっていた2025年3月には「台頭する『利上げ前倒し観測』は日銀の思惑通りか」で3月や5月の利上げの可能性を否定(的中)、次回利上げの基本線は9月とした。
4月のトランプ相互関税の発表後、今度は市場で「もう日銀は利上げできない」「少なくとも年内の利上げはない」という3月とは真逆の見方が増えたが、5月の「マールアラーゴ合意への警戒を解くのはまだ早い」と題するコラムでは、実質実効為替レートでみた場合、「強いドル」と「弱い円」の乖離がちょうどワニの口が開いた状態になっていることを指摘。
2025年秋以降に次期FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長の人選が本格化するタイミングでトランプ大統領の「弱い円」批判が再燃する可能性が高く、トランプ関税が一応の落ち着きを見せれば9月にも利上げはあるとの見方を維持した。
ちなみに、2025年3月と5月の東洋経済オンラインの動画でも9月の利上げを基本線とする見通しを説明している。
市場では、筆者の見解はかなりのタカ派のように映っているようだが、6月5日に発表されたアメリカ財務省の外国為替政策報告書では「日銀の金融引き締め政策は継続すべき」との記述が加わった。日銀の利上げによって「弱い円の正常化と、日米貿易関係の構造的なリバランスを支える」ことができるとしている。まさに5月のコラムで書いたとおりの展開である。
トランプ関税交渉の行方は予断を許さない。トランプ氏は関税交渉で成果を支持者に見せたいという焦りもあるので、ちょうどこのコラムが掲載されるタイミングあたりで予定されている石破茂首相とトランプ氏との直接交渉でまずは「枠組み合意」が公表される可能性はある。
焦点の25%の自動車関税だが、そもそもトランプ氏の任期中は全世界に適用している10%の基本関税は維持されると見込まれるため、25%の自動車関税の完全撤廃は難しいとみられる。もし10%まで引き下げられれば大成功、15%程度までの引き下げでも日本政府の外交成果としては十分評価できるのではないか。今後は7月の参院選をにらんで外交成果の期待値コントロールも石破政権の課題になってくるだろう。
トランプ関税は企業収益にとってマイナスであることは間違いないが、その影響度合いは業種や個社によって異なる。2022年から2024年の2年間で1ドル=120円から160円まで進んだ円安のメリットを受けた企業にとっては、状況次第で関税分をドル建て価格に上乗せ転嫁する余地もあるのではないか。
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