少子高齢化社会でも日本の医療費は見直せる 地方の医療を救う「病院再編」とは?

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ただ、前にも述べたように、急性期患者は若年者に多く、高齢者は多くが慢性期患者である。すると少子化がさらに進めば、急性期患者は相対的に減り、慢性期患者が増える。さらには、65歳以上人口が今後減る地域では、慢性期患者さえ減る可能性がある。さらに付け加えれば、入院偏重を改めて「病院完結型」から「地域完結型」へと転換すれば、入院患者自体が減ることも見込まれる。

となると、図にも示されているように、今後、急性期の病床は相対的に過剰になるから、その病床を回復期など別の機能に転換してもらった方が、患者のニーズにもマッチするし、病院経営にとっても固定費用を節約できたりする点で望ましい。

望ましい「病床再編」とは

では、各二次医療圏で、どのような病床再編が必要か。あいにく、前掲の内閣官房と厚生労働省医政局では、具体的な数値について目下精査中である。

そんな中、地域医療構想とは直接的には関係ないのだが、3月18日(図らずも前掲の厚生労働省医政局の検討会と同日)に、筆者が座長を仰せつかった経済産業省の将来の地域医療における保険者と企業のあり方に関する研究会で、2040年までの全二次医療圏の医療需要を推計した報告書を公表した。

この報告書は、保険者と企業の立場で医療需要を把握する必要性から、「患者調査」など公表データに基づき将来の医療需要を推計したものである。そこでは、地域によって様相がかなり異なることとともに、入院患者数が大きく減少する地域では病床削減を進める必要性が示されている。

ここで注意したいのは、入院が必要な患者を追い出そうとしているわけでは決してないということである。あくまでも、入院するより自宅で療養した方がQOL(生活の質)が高まる患者には、自宅で療養できるように地域ぐるみで取り組むということである。

こうした取り組みを、二次医療圏ごとに、将来の医療需要をにらみながら改めて行き、よりよい地域医療を目指そうとしているのである。地域医療構想は、レセプトデータという科学的根拠に基づき、診療報酬改定という価格調整だけでなく病床再編という実効性ある数量調整も加えて、よりよい地域医療を目指そうとするところに1つの意義がある。

地域医療構想は、政府が頭ごなしに決めるものではない。各地域で住民、医療従事者、行政機関などが虚心坦懐に話し合い、目指すべき医療提供体制を構築して行くものである。地域医療構想の策定を活かして、よりよい地域医療が実現することを願う。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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