その結果、私は、ミトコンドリアとパーキンソン病に関する基礎研究をすることになり、多くの大学生が素敵なパートナーや友人たちと過ごしている時期に、24時間365日、細胞とマウスと共に生活を送るようになります。あまりにも人と話すことがないので、マウスに名前をつけ、友人のように話しかける生活。指導教官には、金森は気が狂ったとからかわれるほどでした。
でも、マウスとの生活はやはり、さみしい。
なんだかどんどん落ち込んでしまい、自分には研究職は向いていないとはっきりと自覚しました。そしてわたしは、大学卒業を間近にして、人生の路頭に迷います。生物学自体は面白いし、未知のことを解明していくその過程はとても魅力的。ただ、研究職を続けていける気がしない。
下痢で30秒に1人死んでいる!
そんなとき、私が目にしたのが世界では30秒に一人が下痢で死んでいるという記事でした。
「下痢!!!???」
30秒に1人が死ぬというのは、2時間毎にジャンボジェット機が墜落しているようなものです。
天命のような響きでした。
小難しい病気で死ぬならともかく、日本に住んでいたら、トイレにこもって暫くしたら復活してしまうような、あの下痢で人が死ぬ。しかも多くの下痢が石鹸による手洗いなど、ごくごく簡単なことで予防可能なのであれば、わたしがミトコンドリアとマウスに捧げていた時間と資金で、軽く数万人くらいの命を救うことができるんじゃないか。
そう思ったわたしは次の日から、猛烈な勢いでリサーチを始めました。
下痢のような感染症を、今まで自分が考えたこともないようなアプローチで解決しようとしている人たちに会える場所はどこ?
行き着いたのが、ロンドン大学の衛生熱帯医学大学院でした。
ここで私ははじめて公衆衛生(パブリックヘルス)やグローバルヘルスという概念に出会います。
歳を重ねるごとに、自分がなんと狭い世界で生きてきたのだろうということに気付かされるのですが、ロンドン大学での気付きと学びは、あまりにもたくさんの衝撃をわたしに与えました。
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