その中でも最も大きな衝撃だったのは、保健医療課題というのは、医者や看護師、理系研究者などの専門家だけで解決できることではない、ということでした。ロンドン大学の衛生熱帯医学大学院では、その名称に反して、同級生には社会学や人類学、メディアや政府関係者など、あまりにも多様な人たちが一緒になって保健医療課題について考えていたからです。その中で、物事を一歩引いて観ることの大切さ、ということに気付かされます。
たとえば、それまでのわたしはマウスとの共同生活が研究だと思っていましたが、見方を変えると研究と一口に言っても、全然違うということに気付かされました。
1つは、下痢という病気を下痢の原因である細菌やウイルス、寄生虫を拡大してしっかり見る基礎研究の領域。
もう1つは、下痢の患者さんを前にして、その患者さんと細菌との関係をみる臨床研究の領域。
そして最後が、私がはじめて出会った、集団を対象として下痢の発生頻度や分布などをみる公衆衛生(パブリックヘルス)やグローバルヘルス的な研究です。
たくさんの命を救いたい!
個々を詳しくみることはできないけれど、全体を見渡すことができる。それまで顕微鏡を覗いてばかりいて、その外の世界を見たことがなかったわたしにとっては、広角レンズの存在を初めて知ったようなものでした。
それまで細菌のレベルで捉えていたものが、人口レベルや国・地域レベルで捉えることができるようになると、そのレベルに応じた解決策を見出していくことができるようになります。この考えがあれば、下痢で亡くなっている多くの人を救えるかもしれない。
この考え方との出会いが私の方向性を決めました。
細菌だけに向き合うのではなく、たくさんの命を救いたい!
これが、ロンドン大学大学院とわたしとグローバルヘルスの最初の出会いでした。
世界を別の角度で見てみると、今まで見えてこなかったことがたくさん見えてきます。
この連載では、わたしが世界で見つけてきた、たくさんの目からウロコのグローバルヘルスのお話をお届けしたいと思います。
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