野口聡一解説、宇宙にある「大量のゴミ」衝撃実態 宇宙活動の負の遺産・スペースデブリとは

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20世紀のデブリの発生源は、主にロケット上段に残った燃料の爆発でした。これが21世紀に入ると、2つの重大な事象が発生します。ひとつは2007年の中国による衛星破壊実験、もうひとつは2009年の人工衛星どうしの衝突事故です。破片の数が飛躍的に増えて、コントロールが難しくなることが明らかになりました。

2019年にはインドが、2021年11月にはロシアが衛星破壊実験を実施。過去にはアメリカも含めて複数の国が行っていた衛星破壊実験ですが、非常に危険であることがわかった中で強行された実験は国際的な非難の対象となりました。今年、ISSが回避したデブリには、昨年のロシアの実験で生まれたものも入っているのです。

技術とルールの両輪で進むデブリ対策

スペースデブリを減らし、軌道上を安全にするために、国連を中心とした国際ルールづくりや、使い終わった衛星やロケットをできるだけ早く取り除く仕組みづくりが活発になってきています。

「ADR(積極的デブリ除去)」とは、スペースデブリや寿命がつきた後の人工衛星を軌道上から取り除く技術です。地球を回る人工衛星の軌道には、大きく分けて高度2000km以下の「地球低軌道」と、3万5800kmの「静止軌道」があります。低軌道の中でも比較的低い、高度300~400kmにあるスペースデブリは、比較的早く落ちて地球の大気圏で燃え尽きてしまいますが、高度600~800km付近ではなかなか落ちずに軌道を回り続けるため、衝突の可能性が高くなります。

そこでデブリを捕まえる専用衛星や、大気圏再突入を促進する装置などを使用して軌道から積極的に取り除こうというものです。日本では、ベンチャー企業のアストロスケールや川崎重工業がADRの技術開発に取り組んでいて、まもなく宇宙での実証実験の成果が聞こえてくるでしょう。

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ADRのような新たな技術は、企業や国がバラバラに取り組んでいると効果が上がりにくくなります。そこで、各国の足並みを揃えてデブリ対策を国際的なルール化しようという動きも進んでいます。

これから打ち上げられる人工衛星は、運用終了後に早く大気圏に再突入するための装置を搭載して、できるだけ早く軌道を離脱する。アメリカの場合は、小型衛星を開発する場合に軌道離脱を可能にするエンジンなどを搭載すると、衛星打ち上げ前の国の審査を少し早め、また費用も割り引くという制度があります。

また、バイデン大統領は2022年に自主的に衛星破壊実験を禁止することを決めました。デブリ対策のルールを積極的に自国に適用することで、国際的な機運を高めようというものです。

スペースデブリは、宇宙を積極的に利用しようとすればするほど増えてしまうものです。では宇宙活動をすべて禁止してしまえばよいかといえば、宇宙飛行士っである私にとってそんな世の中は来てほしくありません。対策にはコストも時間もかかりますが、「コストをかけてでもデブリ対策をすることでより宇宙に進出しやすくなる」仕組みを国際的に考え、進めようとしているのです。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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