日本ミステリーの基盤構築した江戸川乱歩の苦悩 言論弾圧も、戦争の影響受けた「日本近代文学」

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「日本近代文学の名著」と呼ばれる作品をどのように読めばいいのか──ヒントをお届けします(写真:YamabukiZ/PIXTA)
樋口一葉や森鷗外、夏目漱石、宮沢賢治、三島由紀夫など、「日本近代文学の名著」と呼ばれる作品を国語の授業などで覚えたけど、実際に読んだことはないという方、意外と多いのではないでしょうか? 名作をどのように読めばいいのか──。劇作家・演出家の平田オリザさんの新著『名著入門 日本近代文学50選』より一部抜粋し再構成のうえそのヒントをお届けします。本稿では江戸川乱歩と井伏鱒二についてお届けします。

日本の推理小説の基盤「江戸川乱歩」

『怪人二十面相』(ポプラ文庫クラシック)
江戸川乱歩 えどがわ・らんぽ(1894〜1965)
日本の推理小説の基盤                  
『怪人二十面相』

岸田國士、堀辰雄、高村光太郎など大正末から昭和初期に登場した文学者たちは、かの戦争についてそれぞれの生き方、向き合い方を選択した。

日本の推理小説の開祖江戸川乱歩もまた、その1人だった。エドガー・アラン・ポーから筆名をとった乱歩は当初から日本に新しい探偵小説を生み出そうと研鑽する一方、『人間椅子』『芋虫』など猟奇的な短編を書いて注目を集めた。

例えば『人間椅子』は椅子の中に潜む醜い椅子職人の物語だ。

声によって想像すれば、それは、まだうら若い異国の乙女でございました。丁度その時、部屋の中には誰もいなかったのですが、彼女は、何か嬉しいことでもあった様子で、小声で、不思議な歌を歌いながら、躍る様な足どりで、そこへ這入って参りました。そして、私のひそんでいる肘掛椅子の前まで来たかと思うと、いきなり、豊満な、それでいて、非常にしなやかな肉体を、私の上へ投げつけました。しかも、彼女は何がおかしいのか、突然アハアハ笑い出し、手足をバタバタさせて、網の中の魚の様に、ピチピチとはね廻るのでございます。

それから、殆ど半時間ばかりも、彼女は私の膝の上で、時々歌を歌いながら、その歌に調子を合せでもする様に、クネクネと、重い身体を動かして居りました。

これは実に、私に取っては、まるで予期しなかった驚天動地の大事件でございました。
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