繰り返される「公務員の不祥事」の背景にあるもの 問題は個人にあるのか、組織か…専門家に取材
今回の事件では、部下に対する上司の監視体制が不十分だったと思われても仕方ない。事実、逮捕された職員が住基ネットのシステムにアクセスするにあたり、ログインには静脈認証が必要だったが、検索自体は自由にでき、上司の許可は必要なかったという。また職員が所属していた区民課が扱う個人情報は膨大だったことから、職員1人ひとりの業務が煩雑になっていて、区民課内部での相互のチェックも行き届いていなかったようだ。
一方で、太田教授は「私は組織の問題のほうが大きいように思う」とも述べる。
「役所に限らないが、日本の組織というのはおおむね閉鎖的であり、内部の論理で動く。私はそれを『共同体型組織』と呼んでいる。その共同体型の組織の特徴で顕著なのがジョブローテーションであり、部署や仕事の特性に応じたマネジメントが十分に行われない傾向がある」
「大事なのは、そこで情報の取り扱いについて厳しく指導が行われたかどうかということ。役所全体が共同体になっていると、外部と役所内部との間に大きな壁ができる。常に外部の目、つまり社会の目にさらされているというような感覚が鈍くなっていく」
さらに、相互のチェックがききにくい公務員組織の特徴として、「役所の業務がそれぞれの部署でタコツボ化している」点を指摘する。
「まず、仕事の役割分担が明確になってないということが、職員個人が組織のなかに溶け込んでしまっている原因だと思う。職員個人の役割が明確になっていれば、その場の空気で物事が決められたり、組織を隠れ蓑にした無責任な仕事が行われたりすることがなくなる」
奈良県生駒市の取り組み
こうした公務員の組織の問題に対して、リーダー自らが率先して動き、根本的な解決策を見出そうとしている自治体もある。
奈良県の北西部に位置する生駒市では、かつて市内の消防署で不祥事が相次いだ。消防士長が窃盗容疑で書類送検されたほか、救急隊が搬送先を間違えるなど、ミスは数件に及んだ。これを受け、当時副市長だった小紫雅史市長が全消防職員約130人と面談を行い、現場の悩みを吸い上げて改善策に反映させた。
小紫市長は当時のことをこう振り返る。
「消防署員全員と面接して、細かい問題点が次々と明らかになった。同時に署員1人ひとりは強い使命感を持っていて、とくに一部の若い署員からは、組織を変えていきたいという気概も感じた。一方で、署員の意見を取り入れて消防のあり方を変えていこうというリーダーシップが、組織として非常に遅れていたことを痛感した」
今回の事件についても、「周囲の気づきがあったかどうかが重要」だと述べる。
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