東京駅から30分、日本最小「蕨市」の知られざる魅力 かつては城もあった!?「蕨」が見せる多面性

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そんな郊外住宅地としての色彩が強い蕨市だが、駅前を歩いていると1つほかのまちと違うことがある。それは日本語ではない言語でしゃべる人たちや中国語特有のアクセントが強いしゃべり方をする人たちによく出会うことだ。

蕨駅近くには中国人住民が多いことで何度かメディアで取り上げられたことがある川口芝園団地がある。この団地は先述した日本車輌の工場跡に建設された大規模団地で、川口市内にあるが、通りを挟めばもう蕨市である。

川口芝園団地(筆者撮影)

蕨市自体も外国人人口の割合は約10%で、全国平均よりもはるかに高い。蕨駅から川口芝園団地は北西の方向にあり、そちらへ歩いていくと、団地近くには中国系のみならず多国籍な飲食店がある。

また、近年「ガチ中華」で知られる池袋駅北口の店には蕨・西川口周辺の物件を案内する不動産の広告や配送サービスの案内があり、実際にこのあたりの中国系居住者は多いように感じる。

多国籍な飲食店が並ぶ(筆者撮影)

外国人人口は実際に住民登録している人たちなので、一時的な滞在者を含めるともっと多いだろう。なによりも言葉や容姿で聞き慣れない、見慣れないというインパクトもあることから、実際には10%という数字以上に外国人が多いように感じられる。

かつて「アフリカ村」と呼ばれたアパートがあった

また、蕨市は中国に限らず、さまざまな国籍の人が住んでいることで知られる。1990年代にはアフリカ人100人以上が住んでいた「アフリカ村」と呼ばれたアパートがあり、この頃からすでに外国人労働者が多く居住していることで知られていた。

蕨市・川口市は東京に近いながらも単純労働者を受け入れる工場や作業場が多い。また、外国人もすでに多く住んでおり、その人的つながりで来ている人も少なくない。それゆえに外国人が多く居住している。

一方で外国人住民が前面に見えるのは蕨駅周辺や川口芝園団地周辺くらいだ。大方の蕨市内は郊外住宅地らしい場所で、外国人居住者の影はそこまで強くない。

また、川口芝園団地では外国人住民とのコミュニケーションがうまくいかないという報道もみられ、国際色が強いといっても明るい話というよりも、すこし慎重に扱わざるを得ない側面が強いように感じる。また、面積の狭い自治体ゆえにそれなりに固まってある程度の人数の外国人が住んでいると目立つという部分もある。

むしろ蕨というまちから感じるのは、まちのなりたちを頭に置きつつ、国際化について考える難しさだ。そういう意味では蕨というまちが今後どのように変化していくか注目である。

さて、ここまで、日本最小の市、蕨について多面的に紹介してきた。東京郊外の小さな市域ゆえに平板な郊外住宅地かと思えば、住宅地としても、また現在の様子としてもなかなに個性的なまちであることがうかがえたかと思う。

ぜひ機会があれば、ちいさなまちにも多様な面があるということに触れるためにも、蕨を訪ねてみてはいかがだろうか。きっと面白い発見があるはずだ。

鳴海 侑 まち探訪家

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なるみ ゆう / Yu Narumi

1990年、神奈川県生まれ。大学卒業後は交通事業者やコンサルタントの勤務等を経て現職。「特徴のないまちはない」をモットーに、全国各地の「まち」を巡る。これまで全国650以上の市町村を訪問済み。「まち」をキーワードに、ライティングをはじめとしたさまざまな活動を行っている。最新の活動についてはホームページ(https://www.naru.me/)やX(旧・Twitter、https://twitter.com/mistp0uffer)で配信中。

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