「成功体験」後の経営判断が本当に難しい深淵理由 日本企業の6ケースから学ぶ首位奪取の戦略

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今回取り上げたケースでは、いずれも技術上の世代交代が契機となって首位の交代が起きており、パターンは酷似している。

新世代に懸ける挑戦者が登場すること自体に不思議はないが、そこで受けて立つ側の盟主があえなく敗れてしまうのは、旧世代の延命に走るからである。

ここでは延命に成功した事例を取り上げていないが、おそらく数は少なくないはずで、専守防衛が合理的な選択になっている可能性も高い。

最初の4ケースで重要なのは、新首位企業の挑戦を受けるまで旧首位企業が新世代技術を傍観していたという事実である。

■ジョンソン・エンド・ジョンソン 対 メニコンのケース

旧盟主の呪縛を象徴するのはコンタクトレンズのケースで、ここでは外資のジョンソン・エンド・ジョンソンがベンチャー企業の技術を用いて、レンズのディスポーザブル(使い捨て)化を先導してきた。

そこには高い技術障壁がそびえ立っており、メニコンは純粋に追随できなかったのかもしれないが、「そもそも追随しようという気にならない」ところが戦略的には重要である。

いずれにせよ、コンベンショナル対ディスポーザブルという図式が成立して、ユーザーがディスポーザブルを選択したことから逆転につながった。

このケースでは、メニコンはメニコンでユーザーのためと信じて酸素透過性の高いレンズなどを開発してきた経緯がある。

そんななか、安易にディスポーザブル化の波に乗れば、これまでの開発努力は何だったのか、これまでユーザーに発信してきたメッセージは何だったのかと自社の社員に問われかねない。それだけでなく、これまで築き上げてきた店舗網が、競争優位の源泉から、不良資産に転じてしまう。

ディスポーザブル化すれば購入頻度が上がるため、ユーザーの日常動線上に店舗を置く必要があるのに対して、既存の店舗網は目的買いを見越して賃料の安いスペースに入居してきたからである。

旧首位企業が動けない根本理由とは

続く3ケースはいずれも医薬品に関するもので、製品の延命を図る旧世代の盟主を、新世代の旗手が攻め立てる図式になっている。

製品の延命という言葉に良い響きはないと思われるかもしれないが、薬効が大きいことも、副作用が少ないことも証明された薬で、しかも医師多数が使い方を熟知する薬となれば、未知数を抱えた新薬に不戦敗を喫するわけにもいくまい。

長所を訴えて、挑戦を退けようとするのは、合理的なレスポンスと言えよう。

そして先に述べたとおり、専守防衛が奏効したケースも少なくないのかもしれない。となれば、旧首位企業が直面する難しさの一端がわかるのではなかろうか。

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