池上彰解説、中間選挙後のアメリカが抱える課題 米中の狭間の日本は危うい立場になりかねない

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こんな経済情勢の中で迎えたアメリカ中間選挙。民主党と共和党の勢力はどう変化するかが注目されました。

4年に一度の大統領選挙の間に実施されるので中間選挙と呼ばれますが、下院議員全員と上院議員の3分の1が改選されます。ここに大きな影を落としていたのが、ドナルド・トランプ前大統領の存在です。

アメリカの選挙は、たとえ現職の議員がいても、各党があらためて予備選挙を実施して党の候補を正式に決定します。共和党の予備選挙では、トランプ氏が推薦する候補が次々に勝利しました。結果、共和党の多くの候補がトランプ派となりました。

ただ、トランプ氏の支持を得たことは、共和党の候補選びでは威力を発揮しましたが、本選挙では、一般の有権者が反発して、当選が難しくなるかもしれないという観測も浮上しました。共和党の候補者にとって、「トランプ印」は諸刃の剣なのです。

バイデン大統領は「台湾を守る」と明言

その一方、2020年の大統領選挙では、「反トランプ」の票を集めて当選したバイデン大統領ですが、どうも迫力に欠け、支持率は低迷しています。中間選挙の結果は善戦したともいえますが、2024年に再選を目指すことは大変であることは間違いないでしょう。そんなバイデン大統領にとって、「台湾支援」は、超党派の支援が期待できるテーマです。

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連邦議会のペロシ下院議長が台湾を訪問したことに中国は激怒し、台湾周辺で軍事演習を展開しました。しかし、その後もアメリカの議員たちは次々に台湾を訪問し、「台湾支援」を約束しています。議員たちには、民主党員も共和党員もいます。最近の中国の傍若無人な振る舞いに、多くのアメリカの議員は危機感を募らせているからです。こうした人たちにとって、大国・中国の脅しに負けない台湾は、「民主主義の星」に見えるのです。

これまで歴代のアメリカ政府は、中国と台湾の関係について「曖昧戦略」をとってきました。つまり、もし中国が台湾を軍事侵攻した場合、アメリカがどのような行動を取るかは明言しないで中国を刺激しないようにしてきたのです。

ところがバイデン大統領は、「台湾を守る」と明言しています。台湾を守るとは、中国の軍事侵攻と戦うことを意味します。つまり「米中戦争」です。バイデン大統領は、あえて台湾支援を明言することで、「米中戦争」になりかねないことを中国に警告し、戦争を抑止する戦略なのです。

しかし、中国は面子を大事にする国。中国への警告を中国が「侮辱」だと受け止めた場合、何が起きるかわからない怖さがあるのです。果たしてアメリカに、それだけの洞察力や抑制力があるのか、どうか。

こうして見ると、米中の狭間に位置する日本は、非常に危うい立場になりかねません。アメリカは、これから何を考え、どんな行動に出るのか。今後の見通しを考える上でも、アメリカについての基礎的な知識が必要になります。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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