池上彰解説、中間選挙後のアメリカが抱える課題 米中の狭間の日本は危うい立場になりかねない

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バイデン大統領の仕事は、アメリカをひとつにすることです。就任式の演説でも、ひたすら「結束」(ユニティ)という言葉を使っていました。分断の傷を少しでもいやそうとしているのですが、これが難しい。トランプ支持者とも向き合いながら、国をひとつにまとめていけるのか。

もうひとつ、これまで民主党は「打倒トランプ」で団結していましたが、トランプ打倒を果たしたあとは、民主党内で内紛が起きる可能性もあります。

アメリカの民主党で、バイデンは穏健な中道派です。民主党には、若者に人気のバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレン、アレクサンドリア・オカシオコルテスのような左派もいます。彼らの主張は、国が運営する国民皆保険を導入しよう、公立大学の学費を無料にしよう、学費ローンの金利を無料にしようというものです。国民皆保険などは日本では実現しているのですから、日本から見るとそれほど極端なことを言っているとは思われないのですが、アメリカでは「極左」といわれてしまうのです。

とりあえず民主党で極左といわれるサンダースやオカシオコルテス、ウォーレンなどはトランプを倒すためにバイデンに協力してきました。しかしそれが実現したのだから、「左派の主張を認めろ」となります。

2022年に行われた中間選挙では、議会上院は民主党が引き続き主導権を握ることができました。

しかし、下院では共和党が多数を確保しました。このためバイデン大統領は共和党の協力を得なければいろいろなことが進みません。バイデンが共和党と妥協をしようとすると、民主党内部から「裏切り者」と突き上げられる可能性がある。残念ながらバイデンは“史上最弱”のアメリカ大統領になりかねません。

そうなると、2024年のアメリカ大統領選挙では、民主党はバイデンに代わる大統領候補を立てることになるでしょう。一方、共和党は、11月16日、ドナルド・トランプが大統領選挙への出馬を宣言しました。トランプが共和党の候補者に選ばれるかどうかはまだわかりませんが、再び、トランプか、反トランプかの戦いの可能性がでてきました。

世界への影響力は依然大きいアメリカ

ロシアによるウクライナ侵攻で、世界はまるで「第3次世界大戦」がいまにも起きそうな危険な様相を呈しています。

ロシアの蛮行は断じて許さない。

アメリカのバイデン大統領は、怒りを込めてロシアを非難しています。しかし、ロシアに対する経済制裁の結果、石油価格や小麦価格などが高騰。アメリカ国民は物価上昇に苦しんでいます。アメリカ国内では「ウクライナ支援疲れ」が見えてきました。「ウクライナを支援する巨額の資金は国内で苦しむ国民のために使うべきだ」という声が高まっているのです。

次ページ共和党の候補者にとって「トランプ印」は諸刃の剣
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