過剰処方?クスリを出す医者はいい医者か 薬を出されて安心していませんか?
薄くなる薬価差益
医師には薬を処方するメリットがあるのだろうか。20年ほど前までは、確かにメリットがあったようだ。
ある開業医は言う。
「昔は薬を出すほど儲かりました。父も医者ですが、当時は薬を5箱買うと、もう1箱がおまけで付いてきた。製薬会社からの接待といえば、飲み食い、ゴルフ、キャバクラですね」
製薬会社の社員も、医師への接待営業を懐かしむ。
「他社の営業ですが、昔は大学病院の勤務医が開業すると、薬を採用してもらいたくて、中に薬を満載した車をプレゼントした、なんて話も聞きました」
医師は薬を出すと、国が定めた薬価をもとに薬代を計算し、医療保険に請求する。薬の仕入れ価格は薬価よりも安いので、儲けが生じる。いわゆる「薬価差益」で、かつては病院の大きな収入源になっていた。
しかし、これが「薬漬け」につながるという指摘があり、不透明な薬価差益の実態に批判が集まった。それを背景に、1990年ごろから病院は診療、調剤は薬局という役割分担によって医療の質を向上させようと、国は「医薬分業」を推進。経営が別の薬局で調剤する「院外処方」が増え、今ではおよそ7割を「院外」が占めている。
差益自体も薄くなっている。国は薬価基準を、おおむね2年に1度改定する。膨らむ医療費を抑制するため、マイナス改定がほとんど。薬を多く出せば儲かる構図は崩れ、金銭的なメリットから過剰な処方をするインセンティブは薄れている。
薬減らし歩けるように
患者が薬を暗に求める実態がある一方、医師の側にも問題があるようだ。都内のある医師は声をひそめて言う。
「血圧と違い、心は数値化できません。過剰な処方は精神系の疾患に多いんです」
ある日、「新横浜フォレストクリニック」(横浜市港北区)に、認知症の男性Aさん(79)が家族と訪れた。直前まで総合病院に通っていたが、ふらつきがひどくなって歩けなくなり、車いす生活になったという。
Aさんは6種類の薬を併用していた。薬の多剤処方が原因と考えたクリニックは、まず3種類を減らした。すると、3日後に歩き始め、2週間後にはふつうに歩けるようになった。中坂義邦院長は、こう指摘する。
「薬を増やして悪化する『パニック処方』の結果です。薬には依存性もあるから、減らすのが難しい。病気を治すための薬が、多剤、大量の処方によって逆に患者を苦しめています」