人気マンガ「チェンソーマン」で考えるアベノミクス 主人公デンジの夢はなぜ「普通の生活」なのか

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作者の藤本氏は大学卒業後すぐに漫画家になったようで、就職活動はしていない可能性がある。そもそもアベノミクスの恩恵はなかったのかもしれない。

主人公デンジは「親ガチャ」の産物

しかし、「親の借金」を背負わされているという設定の主人公デンジの境遇は、最近の「親ガチャ」の議論そのものであることは重要だろう。アベノミクス下では、雇用好転により所得のジニ係数(不平等さを測る指標)は低下した一方で、強力な金融緩和によって金融資産価格が上昇したため、資産のジニ係数は上昇したという指摘がある。アベノミクスの「陰」の部分である。

「親ガチャ」という言葉は、2021年の新語・流行語大賞のトップテンに選出されたが(2021年10月15日付「『金融所得課税』で『親ガチャ』問題は解決できない」を参照)、藤本氏には、アベノミクスの「陰」の部分が見えていたのかもしれない。これが当コラムにおける筆者の結論(仮説)である。

前述したように、「チェンソーマン世代」にはアベノミクスの恩恵を受けてアベノミクスに肯定的になった人も少なくないだろう。一方で、「チェンソーマン」の流行を考えると、主人公デンジへの共感が集まるように、雇用環境の改善や資産価格の上昇から取り残され、「希望を最初から持ちえない」人も存在し、今もなお増加しているのかもしれない。

いずれにせよ、「景気と流行」や「経済とコーホート」の関係性は、やはりありそうだ。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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