両世代の違いを、株価の推移で比較すると意外にも差があることがわかる。「さとり世代」が過ごした1990~2012年の日経平均の騰落率(各年の12月末値で比較)は約56%減(年率約3.7%減)と、アニマルスピリッツを失うのには申し分のない低パフォーマンスである。
他方、「チェンソーマン世代」が過ごした1992年から2014年は、「さとり世代」とわずかな違いだが、それでも日経平均の騰落率は約3.1%増(年率約0.1%増)と、決してよくはないがプラスである。両者が生まれた時期は、日本経済がバブル崩壊によって急下降していたタイミングであり、スタート地点の株価の違いもある。しかし、次のように、アベノミクスを含むか否かという違いが大きいことも見逃せない。
前述したように、各世代を特徴づける要因として就職活動は重要だと考えられる。そこで、改めて大卒者内定率を確認すると、大卒者内定率は2010年を底に上向き始め、アベノミクス以降(2013年以降)は2018年まで上昇が続いていた。たった数年の違いだが「さとり世代」と「チェンソーマン世代」では、就職活動でアベノミクスの影響を受けたか否かという差が違いをもたらしている可能性がある。
それなのになぜ「チェンソーマン」は暗いのか
なぜ、アベノミクスの恩恵を受けたであろう「チェンソーマン世代」の藤本氏は、「さとり世代」よりも厳しい環境といえる「最貧困」の主人公デンジを描いたのか? 「夢は普通の生活」で、「希望を最初から持ちえない」というイメージは、アベノミクスの「陽」の部分とは異なる気がする。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら