ゆるミニマリストと称する人が目指す理想の生活 ミニマリズムとお片付けを足して2で割るような生き方

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心身のコンディションを「整える」「整う」という表現が頻出するようになったことがそれを象徴している。「整うこと」は単純に小さな幸福の源泉であるとともに、セルフケアの実効性を主観的に評価している言葉なのだ。純粋にニーズという側面から見れば、より即効性の高い実践的なツールが求められるようになったともいえるだろう。

スピリチュアル・アナリストの有元裕美子は、「忙しい現代では、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかず、素早く回復することが求められる。その結果、『ゆっくりと根本的な回復』ではなく、たとえ表面的にでも、通常の生活が送れる程度にまで、『効率的に癒やされたい』という需要が発生する」と指摘した(『スピリチュアル市場の研究 データで読む急拡大マーケットの真実』東洋経済新報社)。

スマートな防衛線を築けるツール

一定程度の試行錯誤を経て、解決策をいろいろ試した末に、「ようやく人生の変容を経験する」のではなく、専門家やプロの手を借りることで、短期間で「人生の正解」を得ようとする傾向が最近のスピリチュアル・ブームの特色だとしている(同上)。加えて有元は、より簡易なものへとニーズが移りつつあるとしており、筆者もミニマリズムやお片付け分野においても、同様の「効率化」志向が進んでいると考えている。

わたしたちが自分しか頼りにできず、社会状況に明るい展望が持てないとき、ミニマムになることでグローバルな生存競争から距離を取り、スマートな防衛線を築くことができるツールはとても魅惑的に映る。仮にそれがまやかしであったとしても、効能が得られるならば試さない手はない。そんな割り切ったリアリズムが必要とされているのだ。それが寄る辺ない時代を生きるわたしたちの一面の真実といえる。(文中敬称略)

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真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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