あの「チャップリン」模倣俳優を軒並み訴えたワケ ディズニーが憧れた類いまれなビジネスセンス

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ところが、裁判所は画期的な判決を下します。「かの扮装はチャップリン氏の産み出したオリジナルなものである。今後、チャップリン氏の模倣を許可なく行なうことを禁止する」。チャップリンは、世界で最初にキャラクターの肖像権を認めさせた人物となったのです。

しかし、この裁判の後も、チャップリンの模倣は巧妙に行なわれます。

「俺の髭は少しでかい」といった抜け道はもちろん、「キャラがちょっと違う。俺の映画のキャラの方が好色で嫌な男だ」などと何を威張っているのかよくわからない反論、果てには「俺の方がチャップリンより先に髭を生やした。俺は8歳の時からちょび髭を生やしていた」とどこから突っ込んで欲しいねんと思うような主張までして、模倣を続けたものもいました。

彼ら巧妙なる模倣者も、1918年以降急激にその数を減らしていきます。これは裁判の影響だけではなさそうです。同年、チャップリンは自前の撮影所を建設して、完全な芸術的自由を手にしました。誰にも干渉されず心ゆくまで時間をかけて作り上げた作品たち。

たとえば『街の灯』では、盲目の花売り娘がチャーリーをお金持ち紳士と勘違いするシーンを撮りあげるのに1年間かけました。1年間で30本以上の短編に出演していたデビュー当初ならまだしも、1本のために数年間かけるようになると誰も真似ができません。

誠実な苦闘の末に、到底真似ができない究極のオリジナリティへと至るわけです。生半可なオリジナリティではビジネスは成功しないということでもあります。

『モダン・タイムス』経理書類をディズニーに

話をディズニーとチャップリンに戻しましょう。

チャップリンはディズニーの才能を見抜き積極的に支援しました。

『街の灯』の併映作品として、ミッキーマウスの短編映画を選び、チャップリンが創設した配給会社ユナイテッド・アーティスツでディズニー作品を配給。チャップリンの応援のおかげで子供たちだけでなく、広い層にディズニー作品の人気が波及していきました。

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