「ゴッホ名画にスープ投げ」を理解せぬ日本の欠点 かなり根が深い「想像力欠乏」状態の蔓延

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そもそも、米津や環境活動家は「礼節のない人」で、「精神の『浅さ』」ゆえに、「すぐ直接行動に」出たのだろうか。

実は、SNS上で今回の事件の張本人が語っているように、彼女らはすでにデモも、署名も、政治家への嘆願も、何年間も地道に行ってきた。けれども、二酸化炭素の排出量は減っていない。今後、もし各国が現在掲げる温室効果ガス排出削減目標が達成できたとしても、今世紀末までの気温上昇は2.6度になるという。これは、科学者たちが警告する1.5度という数字を大きく上回ってしまう(そして目標が達成される保証ももちろんない)。

要するに、今までのやり方では、まったくもって不十分なのだ。にもかかわらず、私たちの大半は気候危機について気にせずに普段どおりの暮らしをしている。みんなが、もっと真剣に、この危機にどう対処すべきかを考えなければならないのに。そんな状況での苦肉の策が今回の行為というわけだ。もちろん、作品本体に傷がつかないことは知っていたという。

若者たちの問いはこうだ。地球と「ひまわり」、どちらが美しいのか。そんなもの比べる対象でないといいたくなるかもしれない。だが、この広大な宇宙で唯一、これほど多くの生命体が存在している地球のほうが美しいと、ジャスト・ストップ・オイルの若者は考える。その地球を守るべきときになにもせず、資本主義社会はたった1枚の絵画に120億円という何人もの命や環境改善をできるバカみたいな価格をつけて、崇めている。

日本に欠けている「学ぶ力」

イギリス人はこのばかばかしさを目下、痛感している。戦争に起因するインフレのせいで、トマトスープを温めるための電気代も払えない人たちがイギリスにはいる。ジャスト・ストップ・オイルは、自分たちの個人的な願望を要求しているのではなく、多くの弱い、声を上げられない人たちに代わって、自らをリスクにさらす行為に出たのだ。

だからこそ、この格差も環境破壊も放置し、弱者へツケを回す社会への怒りや将来への不安を、多くのイギリス人は共有し、支持したのである。

それでも、やはり7割近くが理解を示すという数字は驚きだろう。『人新世の「資本論」』(集英社新書)の末尾で、私は、3.5%の人々による非暴力の直接行動が社会を変えると書いた。ジャスト・ストップ・オイルの抗議活動は3.5%につながりうるものだ。

だが、ここで重要なのは、3.5%による「常識破り」の抗議活動が大きな力を持つのは、社会のマジョリティーが、その一見すると「メチャクチャな」訴えかけに耳を傾け、支持するときだということである。

そのためには、私たちマジョリティーも、当事者の抱える困難を想像し、「学ぶ力」を日ごろから醸成しておく必要がある。ところが、そのような「学ぶ力」が、日本には欠けている。

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