「ゴッホ名画にスープ投げ」を理解せぬ日本の欠点 かなり根が深い「想像力欠乏」状態の蔓延

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エジプトでも2011年に起きた「アラブの春」で、30年間続いたムバラク政権は崩壊した。だが、その後、他の国々と同じように、エジプトの民主化革命は敗北し、軍事独裁政権が復活してしまう。現在のシシ政権のもとで、人々の言論の自由は奪われており、民主化運動を求める活動家たちで拘束されたのは、約6万人にものぼるという。

その1人がイギリス国籍を持つエジプト人のアラー・アブデル・ファタハ氏である。Facebookで人権侵害についての投稿を理由に投獄されて以来、拷問を受けるような非人道的な環境に、もう10年近く置かれている。

アラーはそれでも諦めず、人権侵害に抗議して、100キロカロリー以下の液体を摂取するだけのハンストを、もう200日以上にわたって行っている。それどころか、今回のCOPに合わせて、ゼロカロリーでのハンストを始めており、最悪の場合COPの開催中にも餓死してしまうかもしれない。まさに命がけの抗議を今この瞬間に、たった1人で行っているのだ。

気候正義を掲げるなら、私たちは、アラーと連帯しなければならない。なぜなら、民主主義がなく、人権がない世界で、気候正義などありえないからだ。けれども、日本の若者がCOPに参加するのを応援したとき、私はアラーたちの苦しみを想像することができていなかった。そのことがアラーや他の活動家の命を奪ってしまうことになるにもかかわらず。

人権問題を無視して「地球の未来」を語る空虚

今回のCOPでは、現地での報道や抗議活動に、政府による厳しい制限がかかっている。アラーの解放や軍事政権批判を公の場で唱えるようなことがあれば、公安警察によって逮捕される可能性もある。だから、先進国から飛行機に乗ってやってきたメディアや環境団体はそのような「危険」を前に尻込みし、人権問題を無視して、「地球の未来」「持続可能な世界」を語っている。だが、それは空虚である。

その姿を民主主義のない国で暮らす多くの人々はどのように見るだろうか。気候変動は「意識の高い」裕福な人々の問題で、自分たちは見捨てられているとますます感じるに違いない。

さらに、エジプト政府を批判しない環境運動は、気候変動に取り組む政府としてのお墨付きを、結果的にシシ政権に与えることになる。気候正義を掲げる先進国の環境団体が軍事政権のみせかけの環境対策に加担するという残酷さは、筆舌に尽くしがたいものがある。

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