"目黒蓮の意地"が昇華したドラマ「silent」の凄み "フジヒットドラマ"に共通する「3つの仕掛け」

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少し前の2000年代のラブストーリーであれば、代官山が象徴的に使われた『やまとなでしこ』(フジテレビ系)や、恵比寿ガーデンプレイスが重要な場所となる『花より男子』(TBS系)など、渋谷区や港区といった地域の華やかな場所が舞台とされていた。

さらに時代をさかのぼれば、トレンディドラマ全盛期には「華やかな東京」を舞台にした男女が多く描かれ、視聴者はそこに憧れる――という構図が成立していた。

しかし、『silent』はそうではない。「20代のあまり収入の高くない男女でも住むことができる東京」を舞台にし、背伸びしすぎない、彼らの姿が描かれる。ファミレスや家の中での会話が丁寧に描かれ、派手なデートシーンなどはない。

今後の経済的な成長が期待できず、華やかな生活を望む若者が以前よりも減少しているであろうこの時代に、感情移入しやすい舞台設定となっているのだ。

“ほどよく説明不足”な内容が、「考察欲」を刺激

登場人物たちの会話が丁寧に描かれるドラマではあるのだが、説明が多いかといえばそうではない。むしろ、「あえての説明不足」といってもいいだろう。想の家族構成といった基本事項も初回では全体像が明らかにされず、4話で父親、5話で姉が突然登場するなど、徐々に情報が明かされていく。

そこで、視聴者が盛り上がっているのが「考察」だ。考察とは、2019年に放送されたドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)あたりから盛り上がった文化で、ドラマの中で張られた伏線や、意味深に登場するアイテムについて、SNS上などで視聴者が論じる文化である。

主に『あな番』のような推理ドラマなどを対象とした文化と思われたが、情報が段階的に明かされていくという点で一致したのか、今回の『silent』でも盛り上がっている。脚本の生方も「私が一番、考察されていることにびっくり。考察されるドラマではないと思っていたので(笑)」(「ORICON NEWS」2022年11月2日配信)と驚いているほどだ。

情報が“ほどよく少なく”、視聴者が言葉で補いたくなる余地が残されているのもこのドラマの魅力だろう。

また、このドラマでは、聴覚障害者を単なる弱者として描かない。たとえば、カフェで何か理不尽なことがあれば、きちんと店員に対して注文をつける。さらに、聴覚障害者の中でもグラデーションをつけ、生まれつき聞こえなかった人と、途中で聞こえなくなった人との埋められない断絶も匂わせる。

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