"目黒蓮の意地"が昇華したドラマ「silent」の凄み "フジヒットドラマ"に共通する「3つの仕掛け」

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「24時間テレビ」的な障害者の描き方であれば、「苦難の中にいた彼らが、今、前を向いています!」といった表層的な表現でまとまってしまうところだが、それをしないのである。巧みな脚本でありながら、言葉にしない部分もきちんと残されている。だからこそ、そのグラデーションに視聴者たちははっきりとした言葉をつけたくなり、それがSNSに飛び交うのだろう。

「目黒蓮」の“意地”が昇華した

もちろん、脚本では言葉にされていない部分を、見事に表現しているのが俳優陣だ。

特に、想を演じるSnow Man・目黒蓮の存在感には、目を見張るものがある。本作の出演が決まるとすぐに「手話の勉強をしたい」と進言し、クランクインの数カ月前から練習を始めたという(『女性自身』2022年11月8日号)。

そうやって練習した手話で、想は8年ぶりに再会した元恋人や友人に思いを語りだす。長年、ため込んでいた思いを放出するようなその姿は、不思議と演じる目黒自身と重なってしまう。

今でこそ大活躍の目黒だが、ジャニーズJr.(以下、ジュニア)の時代には注目を浴びない時間が長かった。本人も「ずっと自分を出せない時期があって……。Jr.時代が9年ちょっとあったんだけど、6~7年は素が出せませんでした」(『BAILA』2020年4月号)と語っている。

そのジュニア時代、中3の頃のレッスン中にはこんなことも。

自分を『いらない』と話しているのが聞こえちゃった。悔しくて家でボロボロ泣いて、絶対やめないぞと決意しました」(『AERA』2020年1月20日号)

ジュニアの末端で、自分を出す場所も言葉も持ち合わせていなかった目黒は、ため込んでいたものが多かったのだろう。試練を乗り越えようとする過程で、感受性豊かにさまざまな心の傷を抱えてしまいながらも折れないその姿は、やはり想と重なるものがある。

第1話のラスト、涙を流しながら手話で思いを訴えるシーンは、“苦しい時代を経て、自分の語る言葉を得た目黒蓮”にも重なった。

この役で、目黒自身もため込んできた思いや経験を表現へと昇華し、爆発させているのかもしれない。そしてその積年の叫びは、今まで以上に、多くの人の心を捉えていくことだろう。

霜田 明寛 ライター/「チェリー」編集長

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しもだ あきひろ / Akihiro shimoda

1985年東京都出身。国立東京学芸大学附属高校を経て早稲田大学商学部卒業。9歳でSMAPに憧れ、18歳でジャニーズJr.オーディションを受けた「元祖ジャニヲタ男子」。3冊の就活・キャリア関連の本を執筆後、ジャニーズタレントの仕事術とジャニー喜多川氏の人材育成術をまとめた4作目の著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)がベストセラーに。また、文化系WEBマガジン「チェリー」編集長として監督・俳優などにインタビューする。SBSラジオ(静岡放送)『IPPO』の準レギュラーや、映画イベントの司会も務めるなど、幅広くドラマ・映画・演劇といったエンターテインメントを紹介している

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