紙おむつ“影の主役” 日本触媒SAPとDNA《上》
日本触媒がSAPの増設を決断したのは、リーマンショック直前の08年初め。「100年に1度」の危機の中、自動車産業を筆頭にあらゆる企業が投資を中止、ないし、先送りした。ところが、日本触媒は増設工事を中断しなかった。「正直言えば」と近藤忠夫社長。「(投資を)見直す暇がなかった」のである。
「結局、SAPは08年度も09年度も、数量はマイナスにならなかった。6~7%の伸びが2%に減速しただけ。車やテレビは我慢できるが、紙おむつは毎日使うもの。一度使い始めたら、止められない」。
日本触媒がSAPの生産を開始したのは1983年。当初は生理用品向けで1000トンの能力でオツリが来た。そこへ、ある企業が「紙おむつにSAPを使えないか」と言ってきた。日本触媒はその企業名を明かさないが、業界で知らぬ者はいない。世界最強の日用品メーカー、P&G(プロクター&ギャンブル)だ。
発注量は1万トン。当時のプラントの一挙、10倍だ。役員会はもめにもめた。液体なら均質だが、SAPは粉であり、1粒1粒大きさが違う。大量の粉をコントロールし、仕様どおりの平均物性を実現できるのか。
日本触媒はP&Gから「失敗した際の保証」を取り付けたうえで、1万トンプラントを建設した。それが稼働すると、また1万トン。次の年も1万トン。品質の要求水準がまた厳しい。
「二律背反をやってくれ。それが向こうの要求」(吸水性樹脂研究所の原田信幸所長)。紙おむつのパルプには尿を拡散する機能がある。パルプを減らすということは、SAPに尿を吸う能力と、同時に、吸わない(=拡散する)能力を持たせよ、ということだ。「受け身一方だと、存在感はない。言われる前に、半分くらいはこちらから提案する」。
二人三脚で走り続け、両社は今、特許を共有する間柄になった。といって、P&Gは1社購買するほど甘くはない。2位のBASF以下からも購入している。
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