そして今年1月、前編の冒頭にも記したように中間賞を受賞し、50万ドルを獲得した。その効果は計り知れない。受賞を機に、宇宙関連事業も手掛ける大手製造企業IHIがスポンサーに名乗りを上げた。誰もが名を知る大企業が第1号の企業スポンサーになったことは、ハクトへの信頼感を高め、新たなスポンサー獲得の呼び水になるだろう。
実際、既に水面下でいくつかの話が進んでおり、2輪のローバーを月に送るための資金およそ10億円の資金調達は順調に進んでいるという。ただ、この大きなミッションを達成するためには、まだまだ協力企業が必要と袴田は意気込む。
「相乗り」の決断は自信の表れ
2月23日には、東京・お台場の日本科学未来館で記者会見を行い、同じくGLXPに参加しているアメリカのアストロボティック・テクノロジー社(A・T社)と月面輸送契約を締結し、2016年後半に月へ向かうと発表した。
これは、A・T社の月着陸船「Griffin」に相乗りするという計画で、ハクトにとっては月まで行く手段の確保、月への輸送ビジネスを構想するA・T社にとっては事業化へのトライアルということになる。A・T社の「Griffin」には、ほかのチームのローバーも搭載される予定で、すべてのローバーを月面に降ろしたあと、タイミングを合わせてレースがスタートする。
地球からコントロールされたローバーが、賞金2000万ドルを懸けて月面でデットヒートを繰り広げる。想像するだけで手に汗握る、新時代の幕開けだ。
勝算は? と尋ねると、何事にも慎重な袴田が珍しく言葉に力を込めた。
「ハクトのローバーは、ほかのチームのローバーと比べて一歩も二歩も進んでいます。勝てるという自信があるから、相乗りする道を選びました。無事に月面に到達できれば、優勝できると思います」
2010年1月、たった5人で産声を上げたチームは、5年の時を経て、世界初の民間による月面無人探査の実現に近づいている。ハクト解散の危機からの挽回劇は、まるで砂地に車輪を取られてスタックしていたローバーが、強烈な追い風を受けて砂地を抜け出し、力強く前進し始めたかのようだ。その追い風を呼び込んだのは、10歳のときスターウォーズの虜になった宇宙少年の一途な思いだろう。
袴田の「スターウォーズの宇宙船を造る」という夢はいま、「宇宙船が飛び交う世界を作ること」に変化した。それではいずれ、袴田さんも宇宙へ? と尋ねると、「いえ。僕は乗り物酔いするんで」と照れくさそうに微笑んだ。
=敬称略=(撮影:今井康一)
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