「右と左」ではなく「上と下」の対立が問題な理由 「新しい階級闘争」を回避し民主主義を守る思想
この上流階級による新自由主義的な支配に対して、アウトサイダーに追いやられて発言を失った労働者階級はついに不満を爆発させ、破壊的な反発の挙に出た。それがポピュリズムである。だから、ポピュリズムの原因は、新自由主義的な政策によって労働者階級を抑圧し、政治・経済・文化のいずれの領域においても労働者階級を疎外してきたエスタブリッシュメントの側にある。ポピュリズムは確かに健全ではないが、それは、エスタブリッシュメントの新自由主義的な支配という疾患に現れた症状に過ぎないのである。
「ポピュリズムの反乱」の必然と限界
リンドは、煽動的で破壊的なポピュリズムには批判的であるが、エスタブリッシュメントの立場に与してはいない。むしろ、エスタブリッシュメントの新自由主義的支配に対しても、極めて批判的である。
特に、本書の第6章は、日本の読者には必読であろう。我々が入手するアメリカに関する情報は、もっぱらアメリカのマスメディアを通じてである。しかし、そのマスメディアがエスタブリッシュメントの支配下にあるから、我々が知る情報にはバイアスがかかっている。そのことが、第6章を読むと、よくわかるのである。
エスタブリッシュメントのリベラル派は、トランプを支持するポピュリズムを、ロシアがソーシャルメディアを利用して行った世論操作によるものであるとか、隠れファシズムの発現であるといったように解釈して、非難してきた。だが、ロシアによる世論操作はあったとしても、その影響はごく小さいものに過ぎなかった。トランプ勝利の主たる要因は、地域経済の衰退と労働者の所得の低迷である。だが、エスタブリッシュメントたちは、そのことを認めようとせず、ロシア陰謀説を流し続けた。
また、2017年8月に、バージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者の車が群衆のなかに突っ込んで1人の女性をひき殺すという事件が起きた際、トランプ大統領が記者会見で白人至上主義を明確に非難しなかったと報じられた。そして、この記者会見での発言が、トランプが隠れナチであることの証拠だとされたのである。ところが驚くべきことに、当時のトランプの実際の発言を確認すると、白人至上主義に対する強い非難の言葉がいくつもあったのだ。
一般に、陰謀説を撒き、フェイクニュースを流すのは、ポピュリストのデマゴーグの側であると信じられているし、それは事実でもある。しかし、エスタブリッシュメントの側もまた、ポピュリズムを封じ込め、自分たちの特権的支配体制を守るためであれば、陰謀説やフェイクニュースによって世論を操作していたのである。身の毛がよだつような話である。アメリカの政治は、ここまで腐りきっていた。これでは、ポピュリズムの反乱が起きても当然であろう。
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