「右と左」ではなく「上と下」の対立が問題な理由 「新しい階級闘争」を回避し民主主義を守る思想

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ドナルド・トランプ、ナイジェル・ファラージ、ボリス・ジョンソン、マリーヌ・ル・ペン、マッテオ・サルヴィーニといったデマゴーグが、無知蒙昧で社会に不満をもつ大衆を煽動し、エスタブリッシュメントを攻撃させ、体制を破壊しようとする。彼らは、危険な人種差別主義者であり、リベラルな世界の破壊者であり、もっと言えば、ペテン師である。ポピュリズムについては、このようなイメージで語られてきた。

「右と左」の対立から「上と下」の対立へ

リンドも、ポピュリストの政治家たちを体制破壊的なデマゴーグとみなしており、彼らの主張を擁護しようとはしない。ポピュリストたちは、確かにリンドと同様に、グローバリズムに反旗を翻してはいるが、彼らの自民族中心主義的な主張は、多様性に対する寛容を重視する「啓発されたリベラル・ナショナリズム」とは似ても似つかぬものだ。

だが、重要なのは、この過激な煽動的ポピュリズムを生み出したのは、エリートたちが半世紀にわたって構築し、維持してきた新自由主義的な支配体制にほかならないということである。

ポピュリストとエスタブリッシュメントの対立は、新しい階級闘争である。アメリカをはじめとする先進諸国は、大都市で働く高学歴の管理者や専門技術者から構成される少数派の上流階級と、土着の国民と移民とに分裂した多数派の労働者階級との間に分裂した。そして、権力は、管理者と専門技術者といった上流階級のエリートたちに集中し、労働者階級は、政治・経済・文化のいずれの領域においても、発言する場を失った。上流階級が体制のインサイダーとなり、労働者階級はアウトサイダーとなったのである。

この分裂は、かつてのイデオロギー上の右派と左派とは関係がない。問題は、右と左の対立ではなく、階級の上と下の対立である。たとえば、アメリカでは、共和党と民主党とを問わず、イギリスでも保守党と労働党とを問わず、エスタブリッシュメントは新自由主義を推し進めていた。

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