「右と左」ではなく「上と下」の対立が問題な理由 「新しい階級闘争」を回避し民主主義を守る思想

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だが、デマゴーグに煽動されたポピュリズムは、破壊的・攻撃的ではあっても、特権階級の新自由主義的支配体制にとって代わる安定的な新体制を構築することはできない。それは、エリートたちの鼻持ちならないグローバリズムやポリティカル・コレクトネスといった綺麗事に反発する、下品で露骨なカウンターカルチャー以上のものではないのである。そのことは、2017年から4年間のトランプ政権の顛末を見ても明らかであろう。結局のところ、ポピュリズムの反乱は、エリートたちの強固な新自由主義的支配によって、鎮圧される運命にあるとリンドは言う。

その結果、政治体制は、抑圧的な新自由主義と、それに反発するポピュリズムという両極端の間を振り子のようにスイングし、不安定化することになる。実際、そうなってしまっている。2022年、アメリカでは中間選挙があり、その2年後には大統領選があるが、アメリカにおける政治の不安定化と社会の分断がいっそう深刻化するであろうことは、すでに誰の目にも明らかとなっている。

「民主的多元主義」で拮抗力を取り戻す

この民主主義の危機を打開する方法はあるのだろうか。

リンドは、新自由主義的支配が確立する前のアメリカの民主政治に解決のヒントを得ようとする。かつてアメリカの政治において、労働者階級の声は、労働組合、宗教団体、地域政党、市民団体などの機関が代弁していた。そして、そうした各種機関が「拮抗力」となって、一部の特権的階級に権力が集中するのを防いでいた。このような政治システムを「民主的多元主義」と言う。過去半世紀、エスタブリッシュメントたちは、その特権的支配を確立するために、新自由主義的な政策やグローバリゼーションによって、労働組合や市民団体を弱体化させてきた。この労働組合や市民団体などの機関を復活させ、その「拮抗力」を取り戻すというのが、リンドの提案である。

本書においてリンドは、階級闘争という分析視角を持ち込んではいるが、マルクス主義のように、労働者階級が体制の革命を引き起こすとは考えていない。彼の望みは、階級闘争における労働者階級の勝利ではなく、そもそも、国民が階級に分かれて闘争することを回避することなのだ。階級の壁を越えた国民の連帯と統合を理想とする「啓発されたリベラル・ナショナリズム」こそが、彼の思想である。

私は、リンドの思想に全面的に賛成である。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2003年にNations and Nationalism Prize受賞。2005年エディンバラ大学大学院より博士号取得(政治理論)。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『政策の哲学』(集英社)など。主な論文に‘Hegel’s Theory of Economic Nationalism: Political Economy in the Philosophy of Right’ (European Journal of the History of Economic Thought), ‘Theorising Economic Nationalism’ ‘Alfred Marshall’s Economic Nationalism‘ (ともにNations and Nationalism), ‘ “Let Your Science be Human”: Hume’s Economic Methodology’ (Cambridge Journal of Economics), ‘A Critique of Held’s Cosmopolitan Democracy’ (Contemporary Political Theory), ‘War and Strange Non-Death of Neoliberalism: The Military Foundations of Modern Economic Ideologies’ (International Relations)など。

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