突如SL復活、インドネシア「製糖工場」の鉄道事情 石油価格高騰で「燃料実質タダ」の機関車活躍

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1916年コッペル製蒸機
7年ぶりに火が入った、製糖工場「PGレジョサリ」の1916年ドイツ・コッペル製蒸気機関車10号機「サラック」(筆者撮影)
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鉄道好きの間で、インドネシアといえば「日本製中古電車の楽園」という印象がすっかり定着してしまったが、一昔前までのイメージは「ナロー蒸機(SL)の楽園」であった。これは製糖工場にサトウキビを輸送する軌間600mmまたは700mmのナローゲージ鉄道の、いわゆる「シュガートレイン」のSLである。

しかし、近年は大半がトラック輸送に切り換えられ、レールが残った工場敷地内での輸送もディーゼル機関車やトラクターへの置き換えが進んだ。さらに製糖工場そのものの閉鎖も増えており、2018年ごろを最後に観光用やチャーター用として動態保存されているものを除いて、インドネシアでSL牽引のシュガートレインは全滅したといわれていた。さらにコロナ禍で外国からの観光客も途絶え、製糖工場に部外者が入れない状態も続き、現地の鉄道ファンによる情報すら発信されない状態が続いていた。

そんな中、ある製糖工場(PG:Pabrik Gula)でSLが復活したとの報が入った。なぜ復活したのか?インドネシアのシュガートレインの世界を、製糖工場を取り巻く現状と共に紹介したい。

21世紀初頭まで現役だったSL

ジャワ島中部・東部には19世紀末~20世紀初頭にかけて、宗主国オランダ政府の手によって製糖工場が多数建設され、周囲に広がるサトウキビのプランテーションには線路が張り巡らされた。最盛期には数百両ものSLがジャワ島の製糖工場で活躍していたという。

インドネシア独立後、これらの工場はインドネシア政府に移譲され、国営農園会社(PTPN)の時代を経て、2021年からはPTPN傘下に新たに設置された子会社PT Sinergi Gula Nusantara(SGN)によって管理、運営されている。長らく農産業への政府投資が控えられてきた結果、工場は植民地時代の設備をほぼそのまま使い続けており、近年まで21世紀とは思えない風景が広がっていた。

2000年代初頭までは工場内だけでなくサトウキビ畑に延びる線路が生きているPGも多く、フィールドを走る100年モノのSLを求めて、サトウキビの収穫シーズンにはヨーロッパを中心に世界中から鉄道愛好家たちが集まっていた。

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