突如SL復活、インドネシア「製糖工場」の鉄道事情 石油価格高騰で「燃料実質タダ」の機関車活躍

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元第9国営農園管内では、いずれもシュガートレインを有していたジャティバラン、スンブルハルジョ、ゴンダンバルの各PGがすでに操業を停止しており、SGNに引き継がれたPGタクシマドゥも2022年は稼働しなかった。スンブルハルジョはジャカルタから日帰り可能な圏内かつSLがフィールドに出ることでも有名だったが、2015年を最後に稼働していない。SGNへも移管されなかったため、復活への道筋も絶えた格好だ。

PGスンブルハルジョ
フィールドをSLがまだ走行していた頃のPGスンブルハルジョ。この後、工場ごと閉鎖されてしまった(2013年、筆者撮影)

現在、ジャワ島のPGはSGNに引き継がれた工場のみが稼働しているが、その数は29カ所あり、今後、シュガートレインの聖地といわれた東ジャワでもさらなる大ナタが振るわれる可能性もある。PGレジョサリで訪問許可証を作成してもらったバンバン氏も、「各工場の生産量割り当ては毎年政府が決めることなので、ゼロになったらSLも動かない。来年動く保証はないから今シーズンのうちに撮りなさい」と笑いながら言う。現時点で、はたして来シーズンに工場が稼働するかどうか、誰もわからない状況なのだ。

ジャワ島の観光資産になるか

閉鎖されたPGは引き続き国有財産として、従来の各国営農園が管理しており、観光客に開放されているところもある。現役時代から一部のPGは鉄道愛好家からの許可証発行収入に色気を出し、工場の一部を公園に整備してSLを走らせたり、工場の一部を見学させたりして観光客から副収入を得ていたところもあった。しかし、この2年間のコロナ禍でストップしたまま再開しないところがほとんどだ。

周回式の線路を活用して、以前は稼働する工場の中を観光列車で巡れるようになっていたPGゴンダンバルの前を先日通過したが、コロナと工場閉鎖の二重苦で荒れ果てた姿になっていた。また、PGジャティバランは2017年の操業停止後、いち早く観光地化を図り、廃墟と化していた扇型機関庫も再整備して工場設備と共に一般公開したが、情報発信チャネルの少なさから、地域住民以外にはほとんど知られていないのが現状である。

現役のPGが100年以上前の技術のまま生産、機能維持を続けていても早晩行き詰まるのは目に見えており、近代化は待ったなしだ。一方で、すでに操業を停止したPGは国営農園会社の片手間で営業するのではなく、行政、そして国がしっかりと国内外にプロモーションを図ってしっかりと集客し、同時に適切な管理、保存がなされることを願いたいものだ。観光コンテンツに欠けると呼ばれるジャワ島であるが、産業遺産・歴史遺産として、PGが注目される日が来ることを期待したい。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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