突如SL復活、インドネシア「製糖工場」の鉄道事情 石油価格高騰で「燃料実質タダ」の機関車活躍
朝7時過ぎ、10号機「サラック」が機関庫からヤードへ出てきた。この時間になると、畑からサトウキビを積んだトラックが続々とやってくる。ただ、SLの担当は、空のローリーを工場から引き出す作業で、さすがにサトウキビを満載したローリーを押し込む過酷な仕業からは外しているようである。
工場内では蒸気機関で動く巨大な歯車がいくつも回っており、ここにも100年以上前と変わらない風景が広がっている。トラックからローリーに積み替えられて工場内に搬入されたサトウキビは再びクレーンで引き上げられた後、この歯車で動かしているベルトコンベア上を流れて、圧搾~洗浄~濃縮などの工程を経て、最終的に砂糖として出荷される。
ローリーが1編成丸々空になると「サラック」の出番だ。トラックからの積み替え場の先にある引き上げ線に汽笛一声、ローリーを引っ張っていく。この引き上げ線はかつてサトウキビ畑まで伸びていたわけだが、今ではSLが走るのはこの数百メートルに限られている。しかし、オランダ時代からほぼ変わらぬジャワ島の製糖工場は丸ごと産業遺産であり、そこにSLが残っているのはやはり意義があると感じる。
煙を出さない「圧縮蒸機」SLも活躍
近隣のPGの様子も見てみよう。まず向かった先は、シュガートレインが公道を横切る踏切のあるPGパゴタン。行ってみると、さっそくローリーがディーゼル機関車に押し込まれて通過していった。さらに、工場のほうには3両のSLの姿が見える。これも復活したのかと思えば、作業員曰く毎年走っているという。
SL全廃とは虚報だったのか? さっそくSL好きのインドネシア人に連絡してみると、「あれはファイアレスだから」と素っ気無い反応。「ファイアレス」とはつまり無火、圧縮蒸気を動力源に走るSLのことである。火を焚かないので煙は吐かないし、工場で発生する蒸気をそのまま使えるのだからなおさら燃料費はかからず、致命的な故障が発生しない限り廃車にする必要はないだろう。煙を吐かない機関車ではあるが、このPGパゴタンがインドネシア最後のシュガートレインSLになる可能性はあるだろう。
その後、PGカニゴロ、PGプルウォダディと2つの製糖工場を覗いてみたが、前者は閉鎖、後者はヤードでのローリー入れ替えはトラクターに取って代わられており、工場の塀の中でディーゼル機関車が動いているのが見えるのみだった。SLも1両だけ動態保存しているそうだが、チャーター専用で一般運用には入らないとのことだ。
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