突如SL復活、インドネシア「製糖工場」の鉄道事情 石油価格高騰で「燃料実質タダ」の機関車活躍
今回、筆者が訪れたのは東ジャワ州マディウン。国営車両製造(INKA)の工場でも知られる鉄道の街であるが、郊外にはいくつかの製糖工場があり、工場内のみながらシュガートレインが残っている。この日向かったのは元第11国営農園管内のPGレジョサリ。半信半疑で機関庫を訪ねると、汽笛も高らかに1916年コッペル(ドイツ)製の10号機(愛称「サラック」)がスタンバイしていた。
整備士のエディ氏によると、2015年を最後にSLは引退していたが、今年2022年の7月に復活させたという。製糖工場はサトウキビの収穫シーズンである4月下旬~10月上旬に操業し、シーズン外には工場を止めてメンテナンスを行う。シュガートレインも同様である。もしSLを復活させるなら今年のシーズン入り当初から稼働しそうなものだが、突如の復活の裏には何があったのか。
エディ氏曰く、背景にあるのは燃料費の高騰だという。石油価格の上昇は、今では石油輸入国に転じたインドネシアにも例外ではない。さらにコロナ禍による経済低迷で国家予算は切迫しており、予算捻出のために燃料補助金がカットされた。9月からはディーゼル燃料も約30%の値上げとなっている。
主な燃料は「サトウキビの搾りかす」
そこで白羽の矢が立ったのがSLである。PGのSLの燃料は石炭ではなく、サトウキビの精製段階で発生する「バガス」と呼ばれる搾りかすである。これだけでは燃焼温度が稼げないためまきを併用するが、SLの燃料費は実質的にまき代だけで済む。ディーゼル機関車への置き換えが進んだのはメンテナンスや操作性向上などの観点と、SLの老朽化や修理予算の不足から走らせたくても走らせられないという事情だった。実際、各PG間で、廃車になったSLの部品を融通していたという話はよく聞く。
「サラック」が復活できたのも、他工場などからの部品供給などがあり、そこそこ良好な状態で保存されていたというのが大きいだろう。エディ氏は来期にもう1台、1920年コッペル製の6号機(愛称「アルジュナ」)も復活させたいという。
同工場はフィールド(サトウキビ畑)の線路はなくなっているが、工場敷地内だけは鉄道輸送を残している。これは、工場自体はオランダ時代からほとんど手を加えられておらず、トラックが物理的に内部に入れないからである。トラックに積み込まれてきたサトウキビは、ヤードのクレーンでローリー(運搬用台車)に積み替えられ、機関車がローリーを工場に押し込み、また空になったローリーをヤードに引き出してくる。物々しいトラクターも豪快にローリーを押し込んでいるが、転回に十分な広さがなかったり、ぬかるみで入れない部分があったりするようで、完全に機関車を置き換えるわけにはいかないようだ。
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